paw-36 闘い、終わって - 01

「――ったく、何を企んでやがるんだか、あの野郎」

 ハーシィは、彼にしては珍しく考え込んでいた。

 そもそも、今のこのも彼が仕組んだものなのか?

 御前試合に自分たちだけが出場するというのも先ず以ておかしいのだ。

 しかしクーリェの性格上、ご婦人方を危険に曝すようなことは――。

「――あぁもぅ、止めだ止め!! こういうのは俺の柄じゃねぇ!!」

 彼は耳の後ろを掻きつつ、モンシャ達の方へ歩いて行った。

 何故か、ちょっと悪寒がしたのだが、それは振り払って。


「ハーシィ殿……」

 それを見送る魔術師ジョドォの頬が紅潮していた。


=^ΦωΦ^= =^・×・^= =^◎ω◎^= =^・д・^= =^Φ*Φ^=


 闘技場の床に寝転んだままの彼は、その黄色の双眸を開いた。

 中天に掛かった陽光が眩しく、瞳孔がきゅっと針のように窄まる。

 先程の全力ダブル猫キックで魔力も体力もすっからかんになり、未だ立ち上がる気力もない。

 なのに、この感覚は――。

 ふと横を見ると、隣で同く寝転んでいるコロンのはしばみ色の眼が弧を描く。

 つられて、にーっと笑ってしまった自分に何故かどぎまぎする。

「やっぱりオーレだったんだー」

 コロンに言われて、認識阻害魔法付きの仮面が外れていたことに今更気付いた。

「――バレちゃった。ごめんね、隠してて」

「いーよー! オーレが居てくれて良かったし、ねっ!」

「僕が?」

「うんっ! お陰であの火の玉、やっつけられた!!」

「それは君が――」

「ボクだけじゃ多分、無理。2人でやったからだよー!」

「――っ!」

 コロンの無邪気な不意討ちに涙腺が緩みかけ、慌てて反対を向くオーレ。

 後ろから、あっでも、ご主人が水ぶっかけてくれたし、リータさんも――とか聞こえてくるが、彼は必死にごしごしと顔を拭く。

 ――やっぱり今日はお日様が眩しいや。さっきから眼が痒くてしょうが無いもの。


=^ΦωΦ^= =^・×・^= =^◎ω◎^= =^・д・^= =^Φ*Φ^=


「――さん、もう大丈夫ですよ、リータさん?」

 その声は、何時でも彼女を暗闇から光輝く世界へと引き上げる蜘蛛の糸。か細く頼りなく風に流され、それでも容易に切れることのない糸。

 彼女が顔を上げると、そこには心配そうに眉を下げて微苦笑するモンシャの顔があった。

「その、体調はどうですか? あれだけの聖盾の加護ハリ・アイギスを使った後ですし――」

「――っ!! =^Φ*Φ^=」

 瞬間沸騰で首から上を真っ赤にしたリータは、さっきとは別な感情に突き動かされて震え出す。

 驚いて彼女の額に手を当てたモンシャ、彼女が震えつつも固まっているのを幸い、暫くそのままにしていたが、

「うーん……少し、熱がありますかね……?」

「――へ、平気です、このくらいは。し、しかしぬし様、何故あれが聖盾の加護ハリ・アイギスと――」

「無理してませんか? 本当に? ――あ、は何となくそう見えたんですが、違いました?」

「……いえ……その……」

 肯定も否定もせずに語尾をもじもじと口中で噛み潰している。


「――あー、何だ、お邪魔ならもちっと外しとくか?」

 唐突に上から声が降ってくる。

 声の主は彼にしては珍しく戸惑ったような顔をしている。

「やぁ、ハーシィ。向こうの人たちは無事だった?」

「あぁ。おかげさまでな。――で、お前は兎も角、そっちの聖女様はどうよ?」

「うん、疲れは出ていると思うけど、取り敢えずは大丈夫みたい――」

 ハーシィとモンシャが状況を確認しているさなか、顔の赤みがより一層増していったリータは焦った様子で急に立ち上がると、

「そ、そちらはご無事のようで何よりです。私は、あの子達を看てきますので――」

 言うなりそそくさと早足で去って行った。


 コロンとオーレの方へ立ち去るリータをぽかーんと見送るモンシャとハーシィ。

「急にどうしたんだろ、リータさん」

「やっぱり、お邪魔だったんじゃねぇか、俺?」

 まぁいいか、と思い直して、彼女の後を追う2人だった。

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