paw-19 はじめてのぼうけん - 4

「――ふむ」

 マスター・ベラスは大聖女からの親書に目を通すと髭を撫でつつ考えに沈んだ。

「全く、大聖女様もお耳の早いことだ」

 ギルドのロビーからはそろそろ朝一番でやって来た冒険者達と職員の遣り取りが聞こえ始めている。

 ――あまり目立つのも考え物だ。

 決心してまだ扉の向こうに控えて居るであろうマールに声を掛ける。

「マール、彼らをここに呼んでくれ」


=^ΦωΦ^= =^・×・^= =^◎ω◎^= =^・д・^= =^Φ*Φ^=


「――えぇっ!?」

 本日2度目の驚きですっかり目が覚めたモンシャ。

「あ、あの、それって一体……?」

「一つ目は今読んだとおりだろうね。先日の野犬集団襲撃の事情聴取だな」

 マスター・ベラスは自らに確認するように答える。

「とは言え、何故それを大聖女様が御自らされるのかは私としても些か疑問ではあるが」

「それは良いけどよ」同様に疑問を呈するハーシィ。

「もう一つの、その……御前試合? 俺も初めて聞いたぜ、そんなの」

「そもそも僕は魔導師なので、試合とかとても……(( ;゚Д゚)))」

「そうだね。ハーシィ君はまだ解るんだが、しかも登録したてのコロン君まで……」

「オーレ、貴方、リーゼから何か聞いてないの?」

 皆の疑問を代表してオーレに問うリータ。

「す、済みません、僕は親書を届けるよう仰せつかっただけで……(´・ω・`)」

「ふむ、となると行ってみるしかなさそうだね」

 開き直ったように宣言するマスター・ベラス。

「そ、そんなぁ……(´・ω・`)」情けない顔で途方に暮れるモンシャ。

「マスター」

 何事かを決意したような表情のリータ。

「ん?」

「私も一緒に行きます。許可についてはオーレに取らせますので」

 取るわよね? と無言の圧をオーレに掛けつつ言う。

 オーレは耳を逆立てて冷や汗だらだらになりつつ頷いている。

「解った。ではその旨、私から返書を出しておこう。オーレ君、暫く待っていてくれ給え」

 こちらも完爾とやんわりそれとなく圧を掛けるマスター・ベラス。

 間違いなくこの件の元凶である大聖女を始め、あちこちから圧を掛けられて今にも卒倒しそうな苦労人のオーレであった。


=^ΦωΦ^= =^・×・^= =^◎ω◎^= =^・д・^= =^Φ*Φ^=


「と、兎に角、状況を整理してみよう」

 自分が現在進行形で絶賛混乱中のモンシャが口を開く。

 マスターが返書をしたためるため、ギルド長室を辞した一同で鳩首会議である。

「要するに、こないだの件について詳しく訊きてぇから大聖堂に来い、ってこったろ?」

「そうだね。問題は次の御前試合……?」

「それな、俺だけ出ろってんならまだ解るんだがよ、魔導師ってそもそもタイマンで戦うもんか?」

「そういう状況が普通はあり得ないよ。パーティ戦ならまだしも……」

「そ、それじゃないですかっ!?」

「オーレ?」

「今回、リーゼ様に指名されたのがモンシャ様とハァシェイ様とコロン君ですから、つまりはパーティとして……」

「それなら、まぁあり得るが……にしてもコロンはまだ登録したばっかの新人だぜ?」

「そもそもそんな一介の新人冒険者を何故指名してきたのか……リーゼ……」

 目つきが険しいリータ。

 どうもこの聖女様、相手が大聖女様だと辛辣になりがち。

「……何にせよ」

「行ってみなきゃ判んねぇ、てこったな」

 モンシャとハーシィは同時に溜息を吐いて顔を見合わせた。


「それでそれでっ、リータさんとオーレくんってどーして知り合いなのっ!?」

「えー……っとね、リータ様は僕の従姉で、ウチの父がリータ様のお父上の弟で……」

「オーレ」

 あまり余計なことは言うな、という顔でリータが一言。

 哀れオーレは全身の毛を逆立てて固まる。

「えーっ!! 教えて教えてー!!」

 その圧にも物怖じしないコロンにさしものリータも押され気味。

「そう言えばオーレ君、男爵家の人みたいだけど、てことはリータさんも……?」

ぬし様」

 何故か苦しそうに顔を歪めたリータが哀願するように言う。

「そのことは、いずれ。――行くわよ、オーレ」

 意外な反応に唖然となった一同を尻目に、丁度手渡されたマスターからの返書を素早く受け取ると、リータはオーレを引っ張って立ち去った。

「……どーもアイツも訳有りみてぇだな」

「そうだね……」

 今日は驚くことだらけだなぁ、と驚きすぎて却って冷静になった頭の片隅でぼんやり思うモンシャ。

「リータさん、泣いてた……?」

 訳が解らず(゚Д゚)となったコロンが誰に言うとも無く呟いた。

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