paw-15 白の聖女 - 05

「皆さぁーん! 無事ですかぁー!」

 彼はと走ってきて転びそうになり慌てて持ち直す。

 そこで目の前の縛り上げられた野犬に気付いてとなり、またもや転びそうになった。

 頭頂の耳は三毛がマーブリング状に入り、ぴこぴこと動いている。ここに居る冒険者達には馴染みのある顔だ。


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「遅くなりまして申し訳ありませーん! 冒険者ギルドですー! こちらの皆さんはお怪我などありませんかー!」

 冒険者ギルドから走ってきたのだろう、息を弾ませて叫んでいる。

「よぉ、マール。そっちはどうだったよ?」 

 ハーシィの姿を見て安心したように破顔する彼―冒険者ギルド受付のマール。

「た、大変なんてもんじゃありませんでしたよー! いきなり野犬が沸いてきたと思ったら、あっという間に――」

 そこで、目の前の野犬を見て訊ねる。

「み、皆さんはこんなに沢山の野犬、どうやって倒されたんです……?」

 その言葉で、全員が一斉にモンシャとハーシィを見る。

「――え…と…ハーシィさんがこれ全部、やっつけちゃったんです…か?」

「違ぇーよ」

 ハーシィが短く否定してモンシャを見る。

をぶちのめしたのは殆ど、こいつ」

「――えっ?……えぇっ!!」

 腰を抜かさんばかりに驚いている。それはそうだろう。なんせこの間まで採取専門だったような初級冒険者だ。


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「いやー凄かったぜー、俺らの周りに炎の壁がグワーって伸びてよ」

「でもって今度は野犬の周りにも壁が出来て閉じ込めちまった」

「そしたら急にそこだけ雨がザーって降ってなぁ」

「最期に花火みたいのが飛んでったと思ったら犬どもが静かになったんだよな」

 想像を絶する証言の数々に全く頭がついて行っていないマール。

 それでもなんとか状況を整理すると、モンシャとハーシィに向き直った。

「済みませんが、お二人にはギルドにご足労願えませんか。今回の状況をマスターも知りたいと言っておりますので」

「あぁ、そりゃ良いんだが……」

 ちら、と野犬を見るハーシィ。

「こっちの方なら俺らに任せといてくれ」

「あぁ。こっちで手分けして運んどくぜ」

「あんた達は気にしないで行ってきてくれ」

 先程の3人組が声を上げた。他の者も賛成するように声を上げている。

「――わかった。済まねぇが頼んだぜ」

 ハーシィがそう言って、マールに続いてハーシィとモンシャと猫2匹はギルドへと向かって行った。


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「マスター、お連れしましたー!」

 元気よくギルドの扉を開くマール。

 受付前のカウンターであちこちに指図をしていた細身の男がこちらを向く。

「ご苦労さん。あぁ、ハーシィと――モンシャ?」

 一瞬、怪訝な表情になるも、3人に近くのテープルを勧め、自分も席に着いた。

「――で、そっちの方はハーシィがやってくれたのかな?」

 静かに切り出したここカーヤ村のギルド長、マスター・ベラス。

「そ、それがですね……」

 おずおずとマールが口を挟む。

「――俺もだが、殆ど、

 ハーシィが後を承け、モンシャをと立てた親指で指した。

 今度こそ双眸をと見開いた彼は、やや震える声で訊ねる。

「――あー、その、一体またどういう方法でやったのか訊いても?」

 モンシャが訥々と説明を始め、話し終えると、マスター・ベラスは深い溜息と共に天を仰ぐ。

「……"インヴュネラブル"は健在だった、ということか」

「いんびゅ? なんですか?」

 マールが首をこてんと傾ける。

「彼ら…モンシャとハーシィがここの訓練学校時代に組んでいたパーティの名前だよ」

「――え!? もしかしてそれって"死角無し"!?」

「あぁ、そっちの言い方の方が有名なのか。それだ」

「えぇーっ!!」

 マールは驚きのあまりそれこそ目を丸くしている。

「え……だってあれって……全訓練学校史上最速レコードホルダーで……じゃ、じゃぁ……」

「俺が"雉虎の槍"で、こいつが"全能の魔導師"」

「えぇーーっっ!!」 

 絶句した挙げ句顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。ぴこぴこと忙しく振れる耳が可愛い。

「あー、マール、気持ちは解ったから、今は仕事しようか?」

 にっこりと微笑むマスター・ベラスだが、眼は笑っていないようにも見える。笑顔の圧が強い……。

 気配を察して一瞬総毛を逆立てたマールは、帳面を開いて書記に徹する姿勢を見せる。

「この子、実は君たちの大ファンでねー……まぁ、それはそれとして」

 ギルドマスターの顔に戻ったベラスは、モンシャとハーシィに顔を近づけ、

「さっきの君達の報告にもあったように、こちらに来た野犬も、何やら統率された動きだった。やはり、裏がありそうだね」

「あぁ。俺らが森で見た奴らといい、根っこは同じだろうな」

「この件はどうもこれだけで終わりそうな気がしない――王都の総長アークマスターにも報告を上げておいた方が良さそうだね」

 そこで一旦話がまとまり、先程から何か探している様子のモンシャに気づく。

「どうしたよ?」

「いや、さっきから"みゆ"が見当たらないんだよ」

「そりゃ野良だし、どっか行ったんじゃね?」

「コロコロ、君、知らない?」

 コロコロは首をこてんと傾ける。彼も気付かなかったらしい。


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 結局、その日はギルドも野犬の事件の後処理で忙殺されていたため、彼らは事情聴取が終わると帰路に就いた。

 そのまま、家に帰る道すがら、"みゆ"を探していたモンシャだが、結局見当たらず消沈して先程野犬の群れを一網打尽にした広場までやってくると――

「にゃ~!!」

「"みゆ"!!」

 路地の影から滑るように歩み寄って来た白い影。

 コロコロは喜んで飛び掛かって行きじゃれついている。そのまま2匹を抱き上げたモンシャは顎の下を撫でてやる。

「おぉ! あんたら、帰って来たか! 今日は助かったぜ!」

 あちこちから村人がわらわらと集まってきた。

 皆の様子に違和感を感じ、首を傾げるモンシャ。

「あれ、皆さん、怪我は――」

「お! それがよ、あんたらがギルドに引っ張られてった後にな――」

「聖女様がふらっと来てなぁ」

「全員呼び集めて、片っ端から治してってくれたんだ!」

「いやぁ、噂には聞いてたものの、あの方の治癒魔法はとんでもねーな!」

「それって――」

「"白の聖女"――リータか」

「だね。この辺でそこまでの力があるのはあの人しか居ないだろうし」

 その声に反応したのか、鼻をぴこんと高く上げドヤ顔になる"みゆ"――何故にドヤ顔?

「それじゃぁみんな怪我も治ったんだな! これで懸念事項は無ぇな」

 兎に角、今日は休むに限る――と彼らも各々家に帰った。

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