paw-14 白の聖女 - 04
「野犬だぁー!! 野犬の群れがっ……!!」
外から聞こえてきた声に店内は騒然となる。
ハーシィは立ち上がりざま店内に向かって、
「親爺、俺が出たら扉も窓も閉め切れ! 良いって言うまで開けんじゃねぇぞ!」
言うなり外に向かって走り出す。
モンシャは慌てて後を追うが、猫たちを店内に置いて行こうと卓に置いた瞬間、2匹とも脱兎の如く(猫だけど)ハーシィの後を追って出て行ってしまった。
彼も止む無くその後を追う。後ろで扉が閉まる音が聞こえた。
=^・×・^= =^ΦωΦ^= =^・△・^= =^◎ω◎^= =^・△・^= =^ΦωΦ^= =^・×・^=
店外は予想通り、パニックになっていた。
先日彼らが対峙した野犬の群れがあちこちで人を襲っている。
昨夜からの通達もあり、村に残っているのはおそらく
それらの冒険者たちも戦える者は必死に抵抗しているが、如何せん素早さが段違いで攻撃は碌に当たらず、逆に集団で囲まれて襲われる始末。
これだけ統率の取れた行動を見るに、昨日捕らえた赤犬の他にもリーダーがいたのだろうか?
焦ってハーシィと猫たちを探すモンシャに、1匹の野犬が飛び掛かってきた。
「――うわっ!」
慌てて避けるが脚が縺れて転んでしまう。そこに突進する野犬。避けられない――!
「みぎゃーぅ!!」
その野犬の横っ腹にぶつかった茶虎の塊。コロコロだ!
地面に転がったところを"みゆ"が鼻面に噛み付いたうえ両目に鋭い爪を突き立てる。
「ギャーン!!」
哀れ野犬は悲鳴を上げて逃げて行った。
「あ、ありがとう……ていうか、君たち僕より強くない?(^^;」
お礼代わりに頭を撫でるモンシャを誇らしげに見上げるコロコロと"みゆ"。
「お前らは暇さえありゃイチャイチャしてやがんな(--;」
あきれ顔のハーシィが背中を向けたまま声を掛けてくる。
「あ、ははは……(^^;」
言い訳の余地も無いモンシャ。"みゆ"はハーシィを睨んでいるが幸いなことに彼は見えていない。
「ところでよ、なんかいい手はねぇか? 各個撃破してたって埒が明かねぇぜ」
飛びかかってきた野犬を薙ぎ払ってハーシィが問いかけた。
「そうだね……今、外に居る人を一旦ここに集められるかな? ――
村人に襲い掛かろうとする野犬に稲妻を纏わせた指弾を撃ち出しながらモンシャは応える。
「!! 昨日のアレを使うのか!?」
「あんな大袈裟なのは無理だけどね。火事になっちゃうよ」
「それもそうか。まぁ、手があるんだな!! 任せろ!!」
ハーシィは息を大きく吸い込むと、
「おーい!! みんなここに集まれ!! 動ける奴は動けない奴を連れて来い!!」
良く響く声で叫んだ。あまりの大音声に野犬たちも一瞬、動きが止まる。その隙にわらわらと集まる人々。
「大丈夫かー!? これで全員いるかー!? 逃げ遅れてる奴は――」
いた。
先程、食堂でモンシャに絡んで来た3人組だ。
彼らもナイフや槍で野犬を追い払おうと必死だが、いくら気性が荒くともモンシャと同格の
「ちっ! ヤベぇな。おーい、今行くから持ち堪えろー!」
駆け出そうとするハーシィを止めたモンシャ。
「待って。――
彼の指から天に向けて弾き出された指弾の塊が、先の野犬の上空で傘が開くように拡がっていく。
『ギャーン!!』
拡がった指弾は各個が過たず野犬に命中。纏った稲妻で野犬は感電して動けない。
「ひゅー!やるねぇ! ――よぉし、今のうちだ、走れ、走れ!」
3人組がフラフラになりながらもどうにか辿り着くと、モンシャが魔法を発動した。
「
彼らを中心として集まった人々の周囲を高さが10メートルになろうかとする火焔の壁が取り囲む。
これだけの高さがあれば野犬といえども飛び越すのは不可能だろう。
とは言え、こちらの身動きが取れないのも先日と同じ。
「――今回は、リーダーらしき奴は見当たらない?」
「だな。上手い具合に分散してやがって、さっぱり判らねぇ」
「向こうも学習してるってことかな?」
「冗談じゃねぇぜ、全く――となると、大将首取って終わり、って訳にもいかねぇのか。どうする?」
「――な、なぁ」
声を掛けられて振り向くと、さっきの3人組だ。
「この魔法って、まさか、お前なのか?」
「あぁ」代わりに応えたのはハーシィ。
「さっきの野犬をぶっ飛ばしたのもそうだぜ?」
「そ、そうか……その、さっきは悪かったな」
「あ、いいよいいよ。気にしてないから」
他の2人も揃って先程の謝罪をしたところで、ハーシィが話を戻す。
「で、どうすんだ? さっきみたいにやるのか?」
「あれだとこの数じゃ討ち漏らす危険もあるんだよね。みんなの安全のためにもそれは避けたい、から――」
火焔防壁を取り囲むように周回する野犬を見て、
「まずあいつらを逃がさないようにしなきゃ――
今度は野犬の群れを取り囲むようにもう一つの火焔防壁が現れた。これで奴らは完全に閉じ込められた。
とんでもない魔法の連続に、集まった人々は恐怖も忘れたようにぽかんと見入っている。
「んじゃ後は、これを狭めていきゃ野犬の丸焼き一丁上がりって訳だなw」
「そんな悪趣味なことしないよ(^^; 後片付け大変でしょ」
「まぁなぁ。出来れば勘弁して欲しいわ」
「なんで、ここはスマートに――
二重の火焔の間に突如として黒雲が湧き出たと思うと、雷鳴と共に雨が降り注ぐ。
中に閉じ込められた野犬はびしょ濡れだが、雨は火焔に触れると蒸発するのでその内にも外にも流れ出ることは無い。
一頻り雨を降らせると、黒雲はたちまちの内に掻き消えた。
「
稲妻を纏った指弾の塊が火焔防壁の遙か上まで飛び、二重の防壁の間に次々と拡散して降り注ぐ。
『ギャン!!』
一斉に甲高い悲鳴が上がった後は、打って変わって静かになった。
暫く様子を伺っていたハーシィとモンシャだったが、お互いに頷くと、モンシャが防壁を解除する。
彼らの周囲には地に倒れ伏し痙攣する野犬の姿があった。人々からわっと歓声が沸く。
「怪我した奴は早く家の中に入れ! 元気な奴はこいつらを縛るの手伝ってくれ!」
ハーシィが叫ぶと、わらわらと家に向かう者と野犬の方に走っていく者に分かれる。
皆で野犬を縛り上げていると、ふと視線を感じた。
路地の奥から、赤く光る双眸がこちらを視ている。
ハーシィを小突いて注意を促すと、その視線はふっと掻き消えた。
「……見た、今の?」
「一瞬だけ、な」
「今回は引き上げてくれたのかな?」
「どうだか。この状況じゃなきゃ追っかけてぇとこだが――」
やがて、野犬を縛り上げ終える頃に、ギルドがある方角から誰か走ってきた。
「皆さぁーん! 無事ですかぁー!」
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