paw-11 白の聖女 - 01

「――それだけでは雑菌が入って化膿する。お止しなさい」


 脇道から不意に現れた若い女性の声。

 教え諭すように優しい言い回しとは裏腹に、その声は他人を拒むような冷徹さを纏う。

 頭頂部の真っ白い耳と、猫目石のように美しい怜悧な黄金色の双眸。

 聖職者のそれに似た白い法衣ローブを纏い、単独ソロの上級冒険者として知られる彼女には、その出で立ちに相応しい二つ名がある。

 曰く、"白の聖女"。

 高位の治癒士にして上級冒険者、"白のリータ"その人であった。


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 ご主人の"ぺろぺろ"を止められて頬を膨らますコロンを尻目に、粛々とモンシャとハーシィの治癒を進める彼女――リータ。

「ボクいつも"ぺろぺろ"して治してるのにー!」

 ぶんすかしている姿もまた可愛いコロンであるが、本人的には怒っているつもりである。

「――いざという時にはそれも止む無し。でもね、出来れば綺麗な水で洗って、なるべくなら治癒魔法で」

「でもでもー!」そんなに舐めたかったのかw

「眼には見えないけれど、世の中にはいろいろな"菌"が浮いている。人の身体の中にも。その中には悪さをするのもいて、それが傷口から入ったら悪さをして、酷くすれば死んでしまう」

 淡々と、しかし諭すように説明するリータ。その言葉の重さは、治癒士としての彼女の経験から来るものか。

 その冷たいが真摯な言葉に、コロンも素直に聴く姿勢になった。

「あなたが折角助けてくれたぬし様が、またお辛い目に遭われるのは嫌でしょう?」

「はいっ! それはぜーったいにダンコとしてイヤ!ですっ!」

 くすっと、ほんの僅かに微笑んだリータを、ハーシィは信じられないモノを見るような目で見ている。

「――何です?」

「……い、いや、その……聖女様でも笑うことがあるんだな……って」

 リータの冷徹な視線に押され気味のハーシィがしどろもどろで返すと、

「僕はそのお顔の方が良いと思います――あ、その、失礼ならば謝りますが……」

 フォローのつもりで思わず本音を漏らしてしまったモンシャを見たリータは、一瞬、耳がピンと立ち顔が真っ赤になった――と思ったのだが。

 彼女がと横を向いて「治療は終わりました」と呟きさっさとその場を離れてしまったため、事の真偽を確認することは叶わなかった。


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 その後、本日の打ち上げと称してちょっと豪勢な夕食を取った帰り道。


「それにつけても相変わらずのクールっぷりだな、"白の聖女"様はよ」

「さっきのきれーなおねーさん、誰ですか、ご主人?」

「治癒士のリータさん。"白の聖女"は彼女の綽名で、聖女レベルの高位の治癒魔法の遣い手なんだよ」

「しかも基本的に依頼は受けてもパーティは組まねぇ。基本、独りだな。袖にされた冒険者―特に男どもは数知れず。あまりの高嶺の花っぷりに付いたあだ名が"白の聖女"」

「それは流石に言い過ぎでしょ。人当たりが良い方では無いけど、偶々会った時にはちょいちょいと怪我とか治してくれる、とても良い人だよ。だから"聖女"なんでしょ」

「ほぉ。お前、そんなに聖女様と遭遇してんのか? 俺、今回入れても3回あるかどうかだぞ」

「そう? なんか薬草採りに行ったりすると良く会うんだよね。行動範囲の違いじゃないかな?」

「実はモンシャのストーカーだったりしてなw」

「ないない(^^; そもそも、あんな有名人が僕なんかに興味ある訳ないでしょ」

「しかしさっきのアレは――まぁいいか。じゃ、また明日な!」

 しゅた!と手を上げてモンシャたちと別れ、ハーシィは帰路に就く。


 モンシャとコロンは並んで歩きながら、2人とも彼女―リータのことを考えていた。

「顔が赤かったように見えたのって、やっぱり怒らせちゃったかなぁ」

「あのおねーさんの声、どっかで聞いたよーな……」

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