paw-10 狩りに行こう! - 05

ぬし様、主様、主様――!!』

「ご主人、ご主人、ご主人ー!!」

 護らなければ。命に代えても。私が。ボクが。もう二度と。

 お願い、間に合って――!!


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「なっ……!?」

「え……!?」


 足下にひっくり返って気絶している巨大な赤犬。

 白目を剥いて舌を出し、四肢が痙攣しているので、当分は動けないだろう。

 リーダーの悲痛な吠き声が聞こえたためか、あれだけ居た野犬の群れは綺麗に姿を消していた。

 念のため、火力を落とした状態で火焰障壁を維持しながら、モンシャとハーシィはコロンを凝視している。

 まだ、着地しても身構えたままで荒く呼吸をしている彼の身体は、全身が淡く茜色に光っていた。

 猫の体毛のようにも見えるそれは、紛れもなく闘気オーハの顕現。


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 あの時。

 赤犬に牙を突き立てられる未来が不可避と悟ったモンシャとハーシィが覚悟を決めた、あの時。

 赤犬の動きが一瞬停止した、と思った刹那、モンシャの足下から茜色に光るがそれに向かって突進していった。

 次の瞬間、地面に叩き付けられ悲鳴を上げる赤犬。

 その腹にとどめの跳び蹴りを喰らわせたのは――コロン。

 その全身は燃え上がるように眩い茜色の光に覆われ、爛々と輝く見開いた双眸は獲物を見据える猛獣のそれ。

 コロンは――魔闘士だった。


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「――コロン」

 モンシャがコロンの髪に触れる。闘気の残滓なのか、まだ温かい。

「コロン、もう大丈夫。助かったよ。ありがとう。君のお陰だ」

 ポンポン、と軽く頭を叩く。

「――ご主人?」

 たった今気が付いたかのようにと首を傾げて彼がこちらを向くと、ほんの今まで全身を覆っていた茶虎の光は消えていた。

「済まねぇ。今回のは完全に俺のミスだ。俺もとうとうヤキが回っちまったか。それにしても――」

 ハーシィがコロンの方を見て

「まさか、坊主が魔闘士だったとは、なぁ……」

 それに全くピンと来ていない様子のコロンに、モンシャが説明する。

「魔闘士はね、魔力を全身に纏って戦う近接格闘のジョブなんだよ。魔法障壁に対しても直接攻撃が効く分、距離さえ詰められればある意味防げる相手はいない」

 ぼーっとした様子で聞いているコロン。おそらく、理解出来てない。

「と・に・か・く! 今回はお前のお陰でマジ助かった! お前、ホントに強ぇわ。一体、何処で修行したんだ?」

「――修行……? そんなの知らない……なんか急に頭の中で声がして……気が付いたら……」

「声? 誰の?」

「知らない……けどなんか懐かしい感じの……綺麗なおねーさんの声……」

「何だそりゃ」

「コロンの前世と関係あるのかな?」

「それだとこちとらお手上げだな。それこそ聖女様にでも看て頂かにゃ判んねーわ」

「まぁ、今回は一応、依頼達成ってことでいいのかな?」

「達成どころか大物のオマケ付きじゃねーかよ! あ、この赤犬はお前らの取り分だからな。倒したの、実質そいつだし」

「へ!? ボク!?」

「覚えてねーのか?」

「覚えてるよーな、いないよーな」

「まぁいいや、喜べ。これでお前ら、当分は喰いっぱぐれねーぞ」

「――えっ!? これでごはん、食べられるの?」

「もう1週間分くらいはたっぷりとね」

「じゃ、じゃぁ、ボク、お役に立てたんですねっ、ご主人っ!!」

「お役に立ったどころか、命の恩人だよ、君は」

「わーい!! やったー!!」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねてモンシャの首っ玉に齧り付くコロン。

 ハーシィはそれを見ながら親友の復帰を喜びつつ、ギルドに上げる報告を脳内で纏めていた。


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「何にしろ、ギルドには報告上げとかないとね」

「あぁ。少なくとも他の犬どもはまだ残ってるからな。放っとくと初級冒険者の連中や村の奴らも危ねぇ」

「そういや、怪我は無い?」

「俺のはかすり傷だから舐めときゃ治るだろ。お前こそ、それ」

 ハーシィが指差したモンシャの右頬と、そこに触れようと上げた右腕には先程の赤犬の爪による軽い引っ掻き傷が出来ており、赤く血が滲んでいる。

 ちなみに、その赤犬はハーシィが縛り上げて背負っている。

「じゃぁご主人のはボクが舐めてあげますー!!」

 コロンがモンシャの頬を舐めようと伸び上がった、その時。


「――それだけでは雑菌が入って化膿する。お止しなさい」


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