paw-04 モンシャ - 02
「よぉ、モンシャ! 相変わらずシケた面ぁしてんなぁ!」
背中をバシン!と勢いよくはたかれて、彼-モンシャ-は、今まさに飲み込もうとしたエールに咽せた。
外はとっぷりと日が暮れているが、酒場も兼ねた村にたった1軒の食堂は今が書き入れ時だ。
「やぁ、ハーシィ」
覇気の無い顔で振り向いて困ったように笑うモンシャ。
対するハーシィは野獣も避けて通りそうな偉丈夫だ。
「そりゃまぁね。明日の朝飯でまた空っぽだもん。また薬草でも採りに行かなきゃなぁ」
「最近はあんまし質が悪いって聞いてるが、そうなのか?」
「うん。ここのところ伸びが悪いね。僕はこの辺りでしか採らないから、余所はどうか知らないけど」
「いや、俺が昨日まで行ってた西の村もこっちと似たようなもんだったな。野獣が食い荒らしたとかでもなく、ただ育ちが悪いってぇのか」
「となると、場所を変えても駄目そうだね……」
はぁ、と盛大に溜息を吐いて、残ったエールを呷る。
「だから前から言ってんだろぉがよ! お前も野獣狩りに行けばちったぁ稼げるって!」
「ヤだよ。大怪我したらどうすんのさ」
「俺とパーティ組めばいいじゃねぇか」
「それだと僕の出る幕無いと思うんだけど……」
「かーっ! どーしてお前はいちいち悪い方に考えるのかね!」
「むしろ良い方にしか考えられない君の方がありえない……」
「折角のアレが宝の持ち腐れじゃねぇかよ、勿体ねぇ」
「あの頃は偶々、運が良かったのさ。今のが僕の実力なんだよ」
「俺に言わせりゃ最大の問題はその性格だと思うんだが――ところで、お前、それ?」
「へ?」
「にゃー!!」
「うぇ!?」
「なんだ、とうとう猫でも飼い始めたのかと思ったが……野良か?」
違う、とでも言うようにぶるぶると首を振る子猫。
改めてモンシャの足下に擦り寄っていき、彼の足に顔を擦り付けている。
「……いや、こりゃ懐かれたな。さては餌でもやったろ?」
「多分、さっき帰り道に会った子だ。ここまで付いてきてたのか」
「よくもまぁ、こんなチビが喰われもせんと……」
「そうだね……こんな子猫が」
と、子猫は突如として彼の脚を伝って膝まで駆け上った。そしてここが自分の居場所、とでも言うように丸くなってしまった。
「こりゃまた随分な懐きようで」
「困ったな……どうしよう」
「諦めて飼っちまったらどうだ? どーせデカくなったら勝手に出て行っちまうだろ?」
「それはいいんだけど……部屋中引っ掻きまわさないかなぁ」
「今更そんなん気にされるか、お前んとこのボロ家?」
「あー……確かに」
いつも寝てるのか起きてるのか判らない大家の老婆を思い出しモンシャは苦笑した。
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やがて、自分も夕食を終えたハーシィが彼の得物の大槍を背中に抱えて帰宅し、モンシャも食堂を後に帰路に就いた。
当たり前のように並んで横をあるく子猫。
「お前、本格的にウチに居座る気だな……」
「にゃー!」
「でも明日の飯も無いんだぞ。また稼ぎに行ってこないとなぁ」
「にゃう!」大丈夫!とでも言うように元気に応える子猫。
「お前はいいなぁ。僕も来世があれば猫にでも生まれたいよ」
「にゃ?」
「いや、お前に言ってもしようが無いか……」
そういえば、と思い出し、
「それならそれで、なんか名前付けないとな……んー……なんかとにかくやたらとコロコロしてるから……コロコロ!!」
「にゃ!!」
子猫がぴた、と止まった。あれ、気に入らなかったのかな? と思って別な名前を考えようとしたら――
「にゃーーー!!」
飛び付いてきた。――からの、すりすり。仕上げにモンシャの顔を盛大に舐め始める。
「うわ、ははは、くすぐったいよ。なんだ、この名前、気に入ったのか? なら良かった」
結局、モンシャが帰宅するまで子猫-コロコロ-の"ぺろぺろ"は終わらなかった。
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