paw-02 モンシャ - 01
その日も彼は、とぼとぼと森から村への道を進んでいた。
本日の依頼は恒例の薬草採取。
規定量は集められたものの、どうもここ最近は育ちが悪い。時期的なものなのか、場所が悪いのか……。
これでは明日の昼までにはまた一文無しだ、と計算して彼はがくーっと肩を落としつつ道を進む。
ふと、何処かから聞き慣れた声がする。
あれは――子猫の鳴き声だろうか?
何処から――と思っていると、それは唐突に目の前に現れた。
「にゃ~!!」
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「――え!? えぇーっ!?」
彼は混乱していた。子猫の声がした、と思った瞬間にその子猫が唐突に現れたのだ。
道の脇から出てきたとか、何処か高い場所から飛び降りてきた、という感じでもなく。
気がついたら、目の前に居た。
そもそもこの道は森からほぼ一直線の平原で、周囲には子猫といえども身を潜めるような物は無い。
新種の魔物か何かなのか――!? と、一瞬血の気が引いた彼だが。
「にゃう?」
その子猫が目の前で「あなたはだぁれ?」とでも言うように、こてんと首を傾げたのを見た瞬間に全て吹っ飛んだ。
「――っっっ!!」
だって可愛いんだもん。子猫の首こてんに抗える人類が果たして存在するのだろうか。仮に居るとすればそいつは人の皮を被った別な何かに違いない。
「にゃ~~!!」
その子猫は子猫にしてはちょいとばかりハスキーな声で、何かを訴えるようにこちらを見上げてくる。や、ヤメロ。そんな眼で俺を見ないでくれー!!と叫びそうになった彼だったが。
「……もしかして、腹ペコなのか、お前?」
その問いに肯定するように「にゃう!」と応えた子猫を見て、はぁ、と軽く溜息を吐いて、彼は背嚢の中をまさぐった。
「今残ってるの、この干し肉だけなんだが……お前まだ小さいしなぁ……待ってろ、一旦噛み砕いてやるから」
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本能のままに彼が小さく噛み砕いた干し肉を貪り喰らう子猫。やはり空腹だったのだろう。
成人男性なら片手でもなんとか乗せられる程に小さい。生後3ヶ月くらいだろうか。
茶虎でさっき見たつぶらな瞳は綺麗な翠色だった。はしばみ色と言う奴だろうか。尻尾は短く、先端が鈎になっている。この手の尻尾は利口な子が多いと言っていたのは誰だったか。
それよりも何よりも、綺麗に寸胴な短めの胴体が、この子猫の愛らしさを一層引き立てている。なんとも撫で心地の良さそうな丸々としたお腹であることか……。
干し肉を食べ終えて舌なめずりから顔洗いを始め、股間の辺りを舐めようと姿勢を取った子猫は、バランスを取りきれずに、ころんと転がってしまった。
思わず、その丸々としたお腹を撫でてしまう彼。
期待以上のぷにぷにと、適度なもふもふが合わさり、なんとも至福の撫で心地……。
子猫の方を見ると、そのままの姿勢でうっとりと目を閉じ、果ては喉を鳴らしている。嫌がられてはいないようだ。
彼は暫し時を忘れ、不思議な子猫と戯れていた。
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