第27話 仲直り
ゆき姉にメッセージを送って、しばらく返事は来ないだろうとスマホをテーブルの隅に置いた瞬間、軽やかな音楽と共に電話がかかってきた。画面に表示されている名前はゆき姉のものだ。突然の電話にドキドキしながら、青いボタンを押す。
「も、もしもし」
耳に当てたスマホの奥からは、しばらくの間声が聞こえなかった。もしかしたら間違えてかけてしまったのかもしれない。
「……ゆき姉?」
『ひがおさんの、ことだけど』
彼女の名前を呼ぶと、配信の時より小さな声のゆき姉が、電話の向こうでぽつぽつと話し出した。
『正直に言うと、私は何も知らない。ひがおさんからは何も聞いてないし、多分ヨナちゃんが知ってること以上のことは知らないよ。
でも、私の方にもなんかつっかかってくる人とか、事情知ってるんじゃないかって聞いてくる人がいて面倒だったからSNS更新してなかっただけ。
多分、私が何も言わないからもしかしたら何かあったのかもって聞いてくれたんだよね。ごめんね』
ゆき姉はそう一言でまくしたてる。私が聞きたかったことを全部言ってくれたけれど、どこか突き放すような気配を感じるのは気のせいだろうか。
「そ、そうなんだ……。ううん、大丈夫だよ、ありがとう」
それ以上何も言えず、私もゆき姉も押し黙る。何か言わなきゃ、と思いながら、何を言うべきかはわからなかった。
『……ごめんね』
少し間が開いて、彼女はまたそんなふうに謝罪の言葉をこぼす。
「えっ、いいよ全然。だって、ゆき姉が直接関わってたわけじゃないし」
『違うの』
私の言葉を遮ったゆき姉の一言は、いつもより語気が強かった。何か言いたげな彼女の言葉を静かに待つ。
『この間、電話した時のこと。早く謝らなくちゃって思ってたのに……何も返信できなかった。ごめんなさい』
ゆき姉は震える声でそう言う。
「あ……。ううん、いいよ、大丈夫」
それ以上の言葉を私は言えない。本当はあのとき彼女が何を思ってあんなことを言ったのか聞きたかったけれど、私から聞いてはいけない気がした。
『あのさ、ひがおさんのこと、私が聞いてみようか』
「え?」
ゆき姉が突然話題を変えるから、思わず間抜けな声が出てしまった。あのときのことは、もう話さないということだろうか。でも、彼女の声にはぐらかすような態度は見られないから、とりあえずゆき姉の話を聞くことにする。
『ほら、ひがおさんとは仲が良かったし、私が聞いたら答えてくれるかもしれない。あのツイートのことは、私もちょっとおかしいと思ってたし、気になるから。
……それと、お詫びもかねて』
やっぱり、ゆき姉はわざと話題をそらしたわけではなかった。きっと彼女の中で何か言えない事情があるのだろう。
「本当に?そうしてくれるなら、ありがたいけど……でも、ゆき姉の迷惑にならない?」
『ううん。それに自分の立ち絵描いてる絵師さんが、仲良くしてる妹と揉めてるっていうのも、私にとって穏やかじゃない話だし。解決できるなら、その方がいいもん』
ゆき姉の声は次第に明るくなっていく。もう話せないと思っていた彼女が、こんな風に味方になってくれるのがどうしようもなく嬉しかった。
「じゃあ、お願いしていいかな。ごめんね」
『大丈夫。じゃあ、何かわかったらまた連絡するね』
「うん、ありがとう」
そう言って電話を切ろうとしたとき、ゆき姉が何かを思い出したように声を上げた。
『……引退配信、ちゃんと見に行くから』
その声は、悲しそうで、それから優しさを感じる声だった。
「……うん、ありがとう」
今度こそ電話が切れる。ホッとして思わずベッドに倒れこんだ。緊張が解けたのか、深いため息が出た。
ちゃんと引退配信はきれいな形で迎えよう。「月島ヨナ」のためにも、協力してくれるゆき姉のためにも。
でも今はゆき姉に任せることしかできない。少し心苦しかったけれど、どうしようもないから、とそのまま布団を被り眠りについた。
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