第28話 支離滅裂なとばっちり

 ピコンピコンと連続して鳴る通知音で目が覚める。眠くてくっつく瞼を無理やりにこじ開けスマホを手に取ると、ロック画面にはゆき姉からの通知がいくつも並んでいた。

 時刻は午前十時。今日が休みでよかった。まだぼやける視界をはっきりさせようと目をこすりながら、スマホのロックを解除する。メッセージアプリを起動すると、ゆき姉からのメッセージが十件ほど来ていた。けれど、そのほとんどが何かのスクリーンショットだ。


『ひがおさんとやり取りしたDMを送っておくね。何かに使えそうなら好きに使って。ひがおさんに何か言われても、私が責任を取るから大丈夫』


 メッセージの最後には、そんな一文が書かれていた。メッセージ欄を遡り、一枚目の画像から二人のやり取りを読んでいく。

 送られてきた十枚の画像をまず一通り読み、それから確認のためにもう一度読む。要領は得ないけれど、ひがおさんが言いたいのは多分『立ち絵を安く描いてやったのにそれ以降何も頼んでこない』『自分のことをママとすら呼ばない』『自分の活動を怠っていて、僕にとって迷惑だ』というようなことだろう。

 正直彼の言葉は支離滅裂で、とにかく怒りの感情があることしか理解できなかった。DMのやり取りは午前二時から午前五時にかけての三時間で行われており、そんな時間に人間が正確な文章を送り合う方が難しい。でも彼の文章はそれだけが理由ではないような破綻の仕方をしていた。

 ゆき姉の簡潔な質問を理解せず、ただ感情に任せて書いている。こんなやり取りを三時間も続けたゆき姉はひどく疲れたことだろう。


『大変だったでしょ、本当にありがとう……!!』


 ひとまずそう送ると、ゆき姉からはすぐに返信が来た。


『とりあえずヨナちゃんとひがおさんが何も契約してないって言質をとったし、それだけ公表しちゃっても大丈夫なんじゃないかな』


 確かに、七枚目のスクリーンショットにひがおさんからの言葉で『確かに月島ヨナとは契約してないけど』と書かれている。じゃあ、あの文章は本当にただの八つ当たりだったんだ。


『うん……でも、それだとお互いに一方的に攻撃してるみたいになっちゃうから、話し合えるなら話し合いたいかも』


 ここで私がゆき姉からの証拠を使って契約していないと示したとしても、今度はひがおさんが悪者になり、ただ立場が逆転するだけだ。実際悪いのはひがおさんなのだけれど、和解できるなら和解して、気持ちよくこの界隈を去りたい。


『ヨナちゃんがそう言うなら止めない。でも、あのDMを見たらわかると思うけど、正直この件に関してはまともに話す方が難しいと思うよ。

あの人、私がヨナちゃんのことについて聞いた時点で結構けんか腰だったし』


 それは、私もそう思う。でも私の中で一方的に解決するのも後味が悪い。


『ありがとう、とりあえず自分でなんとかできないかやってみる』


 とはいえ、私から話して何か言ってくれるのだろうか。ゆき姉が聞いてもこんな態度だったのだから、私には解決する方法なんてないのかもしれない。


(……まあ、そうなったら仕方ない)


 ベッドから降り、PCの電源を入れる。SNSを開くと、昨日よりは通知の数が減っていた。きっと放っておけば来週にはみんな忘れていることだろう。この世界はそんなものだ。色んなところで問題が起きて、その度に騒がれては、すぐに飽きて後にはボロボロの当事者だけが残される。まるで子供のおもちゃのようだ。

 ひがおさんとのメッセージ欄を開く。やはり返信はきていない。もう一度文章を打ち込もうとして、その下に「今後、この方にダイレクトメッセージを送ることはできません。」と書かれていることに気が付いた。ブロックされている。

 昨日まではこんなこと書かれていなかったから、ブロックしたとしたらゆき姉とやり取りをしたときのタイミングだろう。まるで許すみたいなスタンスを取っていたくせに、結局こうなるのか。

 彼の連絡先はSNSのアカウントしか知らない。私からはもうどうしようもできないだろう。後は、彼と実際に契約をしていないことを改めて報告するかどうかだ。

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