第25話 届いたDM

 明日になったらもう少し落ち着いているだろうし今日はもう寝てしまおうかな、と思ったとき、DMの方にメッセージが入った。相互フォローしている人しか送れないように設定しているので、さすがにあのツイートに関する暴言ではないだろう。もしかしたらひがおさんかもしれない。そう思ってDMの欄を開くと、そこにあったのは私のリスナーのレオンさんからのメッセージだった。


『すみません、リスナーが配信者さんにDMを送るのはよくないと思ったのですが、どうしても不安になったので……。

ひがおさんのツイートの件について、ヨナさんから何のツイートもないため、どう受け止めていいかわかりません。俺はヨナさんはそんなことをしないと信じていますが、今は何も言えないです。他のリスナーさんたちも困惑しているようです。

どうかヨナさんからもツイートをしてください。お願いします。』


 その文章を読んでハッとする。私のことを見ている人の中には、ひがおさんのことをフォローしているという人も多いだろう。リスナーが不安になるのも当たり前だ。混乱していて、そこまで配慮できていなかった自分に呆れた。

 昨日は推しが引退の報告をして、その次の日にこんな荒れ方をしているとあれば、リスナーたちの心中は穏やかでないはずだ。

 でも、このメッセージだけに返信もできないし、レオンさんもそれは望んでいない。ツイートをしようにも、何を言えば信じてもらえるのかわからない。過去のひがおさんとのDMは依頼時のやり取りだけで、表に出せるようなものではなかった。

 ともあれ、このままリスナーに不安を感じさせ続けるわけにもいかない。とりあえずひがおさんにメッセージを送ろう。何か気に食わないことがあるのであれば、私に直接言ってもらった方がいい。


『ひがおさん、あのツイートはどういうことですか。

契約違反も何も、私たちはそもそも「月島ヨナ」の活動内容に関して何も契約は交わしていませんよね。もしも私が何か勘違いしているのであれば、その契約を交わしているという証拠のご提示をよろしくお願いします。』


 散々文面に悩みながら、そう書いてメッセージを送った。返事がくる気はしないけれど、でも何もしないよりはマシだろう。

 案の定数時間が経ってもひがおさんからの返信はなかった。けれど、彼のSNSは更新されている。『疲れた』とか『俺なんも間違ったこと言ってないんだけど』など、私からのメッセージを読んでいることを匂わせるようなツイートばかりだ。

 彼からの返信がないにしても、とりあえず月島ヨナのリスナーには少しでも安心できるようなツイートをしておきたい。もう知らない誰かには何と言われてもいいから、少なくとも自分のリスナーにだけは事実を伝えたかった。


『色々お騒がせしています。ツイートすべき内容を考えていてこんな時間になってしまいました、ごめんなさい。

今、私からひがおさんの方に確認をしています。私からはあのツイートにあったような契約はしていない、ということだけ言わせてください。


それと、引退配信についてですが、一旦見送らせてください。また日時が決まり次第お知らせします。』


 少し考えてから、下に一文を追加した。時間が経てばこの騒動も治まるだろうけど、それがこの一週間で済むのかはまだわからない。それに、こんなことがあった週に引退なんて、なんだか逃げているように感じてしまう。私はどう思われてもいいけれど、「月島ヨナ」にそんな最後を迎えさせたくなかった。


『とりあえず私は元気だからみんなもあんまり気にしないでね!!!』


 あのツイートだけだとリスナーをさらに不安にさせそうで、少し時間をおいてからそうつぶやく。ひがおさんのフォロワーや、あのツイートを信じた人たちから反感は買うだろうけれど、それでもこれは言っておくべきだと思った。


『よかった、ヨナちゃんの言うこと信じるよ~~!』

『りょ。俺らも信じてないから元気やで、大丈夫。』


 未だ動き続ける通知欄に、リスナーからのリプライが混じって、私は少しホッとする。

日付が変わってもひがおさんからの返信はなく、これ以上待つのも、誹謗中傷の荒らしである通知欄を見続けるのも不毛だと感じた私は、とりあえず明日の仕事に備えて眠ることにした。

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