第3話 SNSの反応

『配信おつヨナ~!人間たちゲーム上手すぎる……いつかリベンジするわ!!!』


 パソコンの画面をSNSに切り替え、そう打ち込んでツイートをする。ふう、と息をつくと深く椅子にもたれこんだ。

 画面酔いのせいか頭痛がする。目をつむってじっとしていると、疲れた瞼の裏にモヤモヤと浮かんでくるのはさっきの配信のコメント欄だった。

 『へたくそ』たった4文字が、私の心にやたらと張り付いている。別に今まで荒らしがいなかったわけじゃない。そんな風に暴言を連投してくるやつなんていくらでもいる。でも今、自分の配信に悩んでいるときに心無い言葉をかけられると、やっぱりきつい部分があった。


「下手なのなんか知ってんだよばーか」


 配信を続けていると、やたらと独り言が増える。ぼそっとつぶやいてから、不安になって配信がちゃんと切れているか思わず確認した。よかった、ちゃんと終わってる。

 このまま落ち込んでいても何も意味はないと思い、画面をSNSに戻した。さっきのツイートにきたリプライでも返して頭を切り替えよう。


『おつヨナ!ちょっとずつ上手くなってるから次も楽しみ!』

『ありがとう!!!』


『おつヨナ~、画面酔いしんどそうだったしゆっくり休んでもろて』

『あのゲームめっちゃ酔う!ありがと!』


『お仕事で行けんかった~~~~泣泣』

『お仕事お疲れさま!』


 ツイートにぶら下がっているリプライを一つ一つ丁寧に読んでは全部に返していく。企業勢の人気VTuberみたいに何十個もリプライがつくわけじゃないから、ちょっと大変だけれど返しきれないことはない。

 それに、やっぱりリスナーさんは返信すれば喜んでくれる。それが素直にうれしくて、時間がかかってでも返そうと思うのだ。

 リプライを返し終え、返信漏れがないかを一通り確認する。大丈夫みたいだ、と思うのと同時に、さっきの配信にいた荒らしがいないことにホッとする。SNSにまで粘着してくるようなやつは本当にいる。


『そろそろ寝る~、おやすみ~!』


 しばらくほかの配信や、タイムラインを眺めた後にそうツイートをした。時刻は午前1時を回っている。PCの電源を落とし、スマホを持ったままごろんとベッドに寝転がった。おやすみツイートについたリプライを淡々と返す。

 リプライが返ってこなくなったころ、SNSの検索窓に『月島ヨナ』と自分の名前を打ち込んだ。でも、出てくるのは自分のツイートばかりだ。『ヨナ』や『ヨナちゃん』ではほかのキャラクターへのつぶやきばかり引っかかってしまうため、エゴサをしようと思うとフルネームしかまともに機能しない。


(まあ、エゴサに引っかかったって数はしれてるけど)


 だからいつもエゴサはしない。よくリプライや反応をくれるリスナーのことはフォローしているから、反応を見逃すこともあまりない。初見さんなんかはフルネームでつぶやいてくれることが多いから、それをたまにエゴサで探していいねをする。

 もしくは、よっぽど熱心なアンチはわざわざフルネームでつぶやいてくれる。今日のあいつはそこまで嫌味なことはしていないらしい。

 エゴサで出てくるツイートが遡っていくうちに一週間前のものになったあたりで目が痛くなってきてスマホの画面を消した。何度も見たことのあるツイートを見たって何にもならない。


 気にしない、と決めたのにそれでもまだ気になってしまう自分に腹が立った。あんなめんどくさいやつにかまうより、リスナーのことをきちんと見た方がいいのはわかっている。それでも、こんなできごとがささくれのようにひっかかる。悪化するとわかっていながら、いじってしまう。


 そんなことをしているうちにもう午前1時半。眠ろうと目をつむり、けれど瞼がうずいて目を開けてしまい、ついついスマホを触る。ほとんど無意識で開いたSNSの画面には、


『ヨナちゃん、大丈夫かな』


 というつぶやきがひとつ浮かんでいた。誰のつぶやきかは確認しない。いいねもしない。まるで大丈夫じゃないと言っているように見えてしまうから。

 『月島ヨナ』は眠っている。だからこのリスナーも、配信やヨナが見ている前では言えないようなつぶやきをしているのだ。大丈夫、ちゃんと『月島ヨナ』は寝ているよ。これを見てしまったのは、ただの私だ。

 画面を閉じ、また目をつむる。スマホから逃げるように背を向けて、眠りが訪れるのを待った。

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