悲劇

まだ春には遠い晴れた朝、尊い命が奪われた。

コンビニ帰りの女子高生が土砂災害に巻き込まれて亡くなったのだ。

まだ16歳。不登校をようやく克服してこの春から地元の公立校へ通う予定だった。

この日は登校に向けた事前オリエンテーションが予定されていた。朝食の牛乳が切れており、母親のいいつけで近くのコンビニへ買い出しに行った帰りだった。

現場は閑静な住宅地。崩落地点のすぐそばを幹線道路が通っており、人や車の往来も絶えない。

「いつも通勤に使ってるルートなんで」

「いやぁ。特に異変なんかなかったですね」

「まさか、あんな所が崩れるなんて」

近隣住民は異口同音に前兆を否定する。

崩れた崖は高さ5メートルほどの急斜面。コンクリートで頑丈な補強が施してあり、国土交通省のハザードマップにも載っていなかった。

そこが幅30メートルに渡って崩壊した。

事故地点をドローンで空撮してみると、さして高くもない山の頂上付近から幹線道路わきの民家まで一気に土砂が迫っている。亡くなった女子校生はそこから3メートルほど奥まった一軒家に住んでいた。

「あの山ですか? 取材なんて珍しいですね。変死体か何か出たんですか?

え、山? なーんも語る事はありませんよ。山菜も特別なインスタ映えスポットもありません。特徴と言われたってこまるなあ。伝承の一つでもありゃあ町おこしになるのに」

89歳になるという古老はそっけなかった。

山はなぜ崩れたのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

▲からのおねがい 水原麻以 @maimizuhara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ