第28話 蜍??、邨ゅo繧


「バグ技に手を出したことでこの世界が狂ってシェリノアが闇落ちしてるの!でもゲームでは逃げる連打程度じゃこのエンディングにはならない筈なのに、どうしてバグエンドが始まってるんだろう・・・」


 ゲームシステムに介入するレベルの異常が察知された時にのみフラグが立つエンディングは、ブレイブファンタジーという作品を踏み荒らしたプレイヤーへの罰、お仕置き、仕返しと考察されている。もしかしたら開発者のちょっとしたイタズラかもしれないが、バグエンドのプレイ映像は多くの人間に衝撃を与えた。


 バグエンドの内容は、気が狂った表情の黒いシェリノアが突然勇者の目の前に現れるところから始まる。シェリノアは勇者への愛を告げ、魔王を討伐した英雄であることを褒め、そして物語の何たるかを解き始める。最初は勇者を讃えていた言葉は徐々に悪態にかわり、勇者が行った行為は世界への冒涜であり、自己満足しか考えられない蛮人とまで言われる。最後にプレイヤーへの酷い人格否定を言い放つと、シェリノア姫が触れた勇者デリックは忽然と姿を消してしまう。そして、一度は救われた筈の世界がモザイク状に消滅する。

 ドット絵で描かれる淡々としたイベントだが、エンディングスチルで描かれた黒のウェディングドレス姿のシェリノアの憎悪に満ちた表情と、何かが乗り移ったように勇者をひたすら貶める言葉の数々がやけに印象的で、自業自得の部分も相まってプレイヤーからは『RPG史上最も見たくないトラウマエンディング』と言われた。


「確かにやり過ぎるのは良くないけど、お遊びみたいなバグ技しか試してないのに。リコリスちゃん達のフラグだって立てて無いし、魔王にだってまだ・・・」


 だからこそ、私はきちんと注意していた。ヒロインを攻略するにあたってエンディング条件を満たしていないか確認したし、実際に勇者は誰ともフラグが立っていない。逃げるバグを使用したのだってゲームではそれが許されていたからだ。


「イブキ、落ち着け。理由がわかれば何か解決策が閃くかもしれないんだな?俺も一緒に考える、えっと・・・」

「勇者がめちゃくちゃモテると世界がおかしくなるの。でも全然そんな条件満たしてない、リコリスちゃんとヴィルマさんは何故か結婚したし、魔王ちゃんと単身で戦ってもいない」


 長い階段をぐるぐると駆け下りながら脳みそも一緒にフル回転させる。


「・・・いや、バグエンドのシェリノア姫は勇者の不逞ではなくて世界を狂わせた『悪事』に対して怒っている。つまり条件がハーレムとは限らない。例えば、ゲームの根本を覆すようなイレギュラーの発生がエンディング条件だとしたら・・・」

「お、俺は世界を狂わせるような悪事なんてしていない。イブキが来る前だって一人で婚活に失敗していただけだ!」


 勇者の婚活。エンディング条件。故意で起こした致命的なバグ。


「・・・あっ」

 ゲームの根本を覆す、システムに介入するレベルの『』。

 この世界で、もしそれをバグというのなら。



「・・・・・・・・・・・・だ」



「ど、どうしたイブキ!」

「あ、あんたが異世界人なんて召喚したからバグエンドのフラグが立っちゃったってことじゃないの?これ!」

「え、な、何の話だ」


 クリア後の世界とは言えゲームの全てを知っているゲームに存在しない筈のキャラクター、というかプレイヤーがゲームキャラクターとして主人公の仲間になる。私の存在そのものがこの世界のバグ扱いされているのかもしれない。私にとってこの世界がゲームを映したもので、この世界の住人にとってこの世界が本物だとしたら、私の召喚は神の介入にも等しい。そしてそんな私が主人公である勇者に色々と影響を与えて行動を変えてしまった。


 それは世界にとってのイレギュラーで、システムを狂わせるレベルのバグに等しいだろう。


「勇者が私を召喚したから、その影響で世界がおかしくなっちゃったの!!」

「なんだと!?」

「原因はわかった!けど、どうすれば・・・」


 と、同時に足元が床を踏みしめる。長い階段が終わり、私は一先ず正方形の石レンガをカチカチと押した。ゴゴゴゴゴゴ、と鈍い音と共に石レンガが開き、外から眩しい光が差し込む。

「と、とりあえず外に逃げよう。イブキ」


 眩しい光、その正体はなんだ。


 だって今は、夕方か夜の筈だ。


「そ、そんな・・・」

 

隠し扉の先に私たちが見た景色は、永遠に続く白い空間だった。


「どういうことだイブキ!?」


 思わず目を擦り二度見するが、変わらず『白が続いている』以外の表現が出来ない異常な景色が広がっている。


「わ、わたしだってわかんないよ」


 城の外に出てみるものの、草原も空も、馬車も何もない、上も下も右も左もひたすらに白が続いているだけの空間。


「私だってブレファンでこんな場所見たことが無いし・・・」


 いや、ブレイブファンタジーでは見たことが無いだけだ。


「・・・もしかして、開発部屋?それとも生成前のMAP?」

 わからない、わからないけど。


「この世界は、シェリノアの手によって壊されたんだ」


 正解、と言わんばかりにその言葉と同時に魔王城が崩れだす。

 いや。崩れる、なんて大層な表現が可笑しい、安っぽい映像のフェードアウトみたいに一瞬にしてしゅるんと消えた。魔王城は主人公がいたから最後に残っていただけで、その最後の世界が今消えたのかもしれない。


「バグエンドが終わったんだ・・・」


 世界、つまりデータの喪失。


 バグエンドは画面いっぱいに描かれた闇落ちシェリノア姫の笑顔のイラストがノイズによって消え、スタート画面に戻ることで終了する。その時に既に全てのセーブデータおよびトロフィーが消失し、『あたらしくはじめる』を選択すると『システムデータが存在しません』の文字が出てやり直すことも出来なくなる。元はPCゲームなので再インストールすれば良い話なのだが、ゲームの中にいるとなれば話は別だ。


「ブレイブファンタジーの世界が消えちゃったんだ」


 データが全て消えた世界の住人はどうすればいいのだろう。永遠に続く真っ白い景色は全ての住人が何の抵抗もなく消失、または他のブレイブファンタジーにコピーされたことを現していると考えられる。しかし、私と勇者は何処に移されるわけでもなく何もない消えた世界に残されてしまったのだ。敵も街も目的も出口も入り口も何もない消えたデータの中に置いてきぼりにされてしまった。


 私たちはこれ以上『つづきから』を選択できない。


 このままこうしていれば不気味な白い空間で一生虚無の時を過ごすか世界と一緒にどこかのタイミングで消えるかの二択だろう。そんなの嫌だ。


 わけのわからないバグと一緒に消える為に私は勇者と一緒に旅をしてきたわけじゃない。バッドエンドですらない曖昧な結末なんて願い下げだ。勇者と一緒にエンディングを迎える事以外に私のゴールは無い。


 だから、私は残された奇跡に縋ることにした。


「・・・・・・勇者、禁呪を使って」


 勇者の血を引く者が二回だけ使える、魔法のない世界の魔法みたいな奇跡。私をブレイブファンタジーの世界に呼んだ規格外の力。


「しかしイブキ、いくら禁呪でも世界を再生するなんて無理だ」

「わかってる!シェリノアを倒せたとしても意味があるとは思えないし、一度消してしまったデータを復元するなんてゲームの世界の主人公には出来ないでしょうね」

「では何を・・・」



「最初からずっと言ってるじゃない。私を元の世界に返すの!」


 私の言葉に、勇者は一瞬だけ戸惑いを見せ、悲しそうな顔で頷いた。


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