第20話 勇者、見世物にされる

 話しながら私が真っすぐに向かった場所はバトルコロシアムと書かれたギャンブル会場だ。


「コロシアムか、ここは正直その・・・勝てないぞ?」

「それは知ってる」

 ビリオールのカジノは種銭を稼ぐならポーカー、自動操作でがっつり稼ぐならスロットと決まっている。舞台に放たれた四匹のモンスターが四つ巴で戦い誰が勝利するか予想するギャンブルであるバトルコロシアムは、レートは美味しくないし一回にかかる時間が長いので稼ぐには効率が悪い。

「勇者、次の試合の戦士登録して来て」

「な、なんだとっ!?再び俺にあの場に立てと言うのか!」

 原作のストーリーでは悪徳商人に面会するための手段として勇者がバトルコロシアムで五連勝しなくてはならなかった。武器や装備は全てはぎとられて最弱の手持ち武器オークのぼうだけ持った状態でモンスターを相手に戦うのは相当に骨が折れるポイントだ。

 アイテム使用不可、仲間の援護は当然ナシ、連勝するたびに強くなる敵モンスターにせめてブレファンが魔法のあるゲームだったら良かったのにと思ったプレイヤーはどれだけいるかわからない。


 悪徳商人を追い払った後のカジノはビリオールの公営となり、人間とモンスターを戦わせるのではなく主にモンスター同士のバトルを楽しむものになった。希望者がいれば昔のような人間VSモンスターの形式で1対1の戦いを行うことが出来る。

 ただし参加費5000Gという価格と勝利してもそれが返って来るだけというハイリスクノーリターンなしくみなので腕試しをしたい馬鹿しかやろうしかやらないらしい。ちなみに高い参加費は戦闘の際に持たされるヨミガエリソウの価格で、死んだ場合はアイテム代として参加費は没収となる。一応連勝することで景品はもらえるが、基本的に店で買えるものがほとんどで、10連勝の際にやっと手に入るヴィルマ専用のユニーク武器はビリオールの武器屋で買えるものとスペックに大差ない。当然次の街でもっと強い武器が手に入ってしまうので、アイテムコンプやイベントコンプを目指さない限りは大変な思いをしてまでやる事じゃない。。

「・・・・・・あれ?これってもしかして、5000G以上儲かるようにモンスター側にかけて仲間に八百長で死んでもらえれば絶対勝てるギャンブルなのでは!?」

「おい、イブキ、話を聞いてくれ」

 ゲーム内では戦士として参加するとその試合に賭けることは出来ないが、この世界ならそれも可能だろう。勇者が参加して私が賭ければいいだけだ。突然思いついた名案に私が目を輝かせていると勇者が深刻そうな顔で説得してきた。

「イブキ、ちなみにヨミガエリソウはただ復活するだけで痛みや後遺症は残るし、そもそも死ぬとき滅茶苦茶痛い。わざと死ぬなんてふざけた事ができるやつがいるならその作戦は叶うかもしれないが・・・まともな人間なら無理だ」

「なんだぁ」

 さっき受付を見た限り戦士登録には身分証明も必要みたいだし、奴隷に無理やりやらせるとかの裏技も出来なさそうね。というか復活アイテムのヨミガエリソウってそんなに怖いアイテムだったんだ。ゴールドにものを言わせてゾンビ戦法していた事を思い出し、謝りたくなってしまう。

「も、もしやと思うが、イブキ、まさか俺に試合に出てわざと死ねというのではないだろうな・・・」

 適当に放置していた勇者がいつのまにかすっかり怯えていた。普段はポーカーフェイスで強敵にも女性にもうろたえないのに死ぬのは怖いみたい。そりゃそうか。

「え?でもこうしないと私の確認したいことがー」

 面白いので少しからかってみよう。

「そんな・・・!でも、いや、正直死ぬのは厳しい。参加費のことは別に構わないのだ、ただ不可抗力で死ぬ事とわざと死ぬ事は恐怖の度合いが相当違くてだな・・・」

 昔一度だけ迷子になってデスルーラしちゃった、ごめんね。

「ごめんごめん、冗談だよ勇者。わざと死ねなんて言わない」

 しかしあの様子だと冗談じゃなくても泣く泣くやってくれていたような気がする。ちょっと勇者は私を信用しすぎじゃない?

「バトルコロシアムに参加して勇者にやって欲しいのは・・・」


 私は勇者に作戦内容を説明した。勇者はわけがわからない、と言った様子で非常に困惑していたが「必要だから!」の力推しの説得で納得してくれた。相変わらずちょろい。

「死んだら困るから失敗した時とかヤバいなって思った時は普通に倒しちゃっていいからね?」

 ヨミガエリソウが復活時に痛みを伴うという情報を得ていなかったら、下手したらここで死にリセマラを要求していたかもしれない。とんでもない外道になる所だった、危ない危ない。

「何をすればいいかわかった。では、行ってくる」

 行動の指示だけ聞いてそれが何の為なのか、成功したらどういった現象が起きるのかを全く聞かずに勇者はバトルコロシアムの戦士登録用受付所へと歩いていく。何も聞かないのは私の話がどうせ理解出来ないと踏んでいるのか私を信じてくれているのかはわからない。


 さて、私はコロシアムの観客席でその様子をみることにしようかな。勇者に貰ったお小遣い100Gを勇者側に賭けて、観客席に向かう。




『まもなく次の試合が始まります!オッズの確認と予想券の購入はお済でしょうか?試合中は原則客席を立ってはいけませんのでご注意ください!』

 石レンガでできた地面の広めのスケートリンクほどの大きさのバトルフィールドを上から見落ろす形で設置された観客席。コロシアムの空気はカジノ内の他のギャンブルよりも荒々しいというか、スロットマシーンとは別の意味で熱を帯びているようで、ドームでスポーツ観戦しているときに近い雰囲気だ。安い予想券でも賭けに乗ることでモンスター同士のバトルという刺激的な催しが見られるのだから、娯楽としてはコストパフォーマンスが高いのかもしれない。

『みなさまお待たせいたしました、次の試合は五日ぶりの戦士試合でございます!!!』

 アナウンスの声にわぁっ、と広い客席から歓声が上がる。戦士試合は人間VSモンスターの試合の事だろう。挑戦する人間がすくないのだから戦士試合は珍しく、普段を知らないが現在の客入りは普段より相当多いのかもしれない。

『そしてそして!なんと今回の戦士は!あの!魔王を討伐して世界を救った・・・・・・伝説の勇者デリックだあああああああああああああ!!!!!』

 ワールドカップで日本が優勝したんじゃないかと思う程の凄まじい歓声嬌声が響き上がり思わず耳をふさぐ。まだ試合が始まっていないどころかモニターに勇者の顔が移されているだけで本人登場していないのに上着を脱いで振り回したり抱き合っている観客がいる。ただ勇者が戦う所が見られるだけでこんなに興奮するのか、なんだか宗教的な怖さを感じてしまう。

『わたくしカジノ創立当初からバトルコロシアムの実況をやっておりますが、断言しましょう。今夜の戦いは間違いなくビリオールカジノ史上、最高に熱く、極上の興奮をお届けする夢のバトルとなることでしょう!観客席は現在入場制限を行っており、外のモニターでバトルの様子を映す手筈が整いました。この場に幸運にも立ち寄ることができたここにいる観客の皆様・・・あなたがたの幸運は本物です!今宵はその幸運を信じてたっぷり遊んでいってください!!』

 さらに客を煽る実況アナウンスによって会場のボルテージは最高潮に達する。まだ勇者出てきていないのに。


 しかし、こんな風に盛り上がられると試しやすい弱いモンスターが相手になるまで何度も挑戦するというわけにはいかなくなってきた。そもそもここまで期待させている以上雑魚モンスターを相手に用意するわけがないし、ここで勝利して次に挑んだらより凶悪なモンスターと戦わされるに違いない。

「勇者・・・頼むから一発で成功させてね」

 勇者に指示した内容はこの世界の人間にとっては無意味な奇行なので、それが今から大勢の観客に晒される事に同情してしまう。

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