第15話 勇者、ただ従う


「勇者ソロ攻略で必須なアイテムはこの街で大体手に入るからあとで買い物するとして・・・あとは私の考えている作戦が通じるかどうか、戦闘で確認したいんだけど街の外にいる適当な魔物と戦えたりする?」


「魔王を封印したから野生の魔物も魔獣族も今は敵意が無い。倒さなくてはいけないような悪い魔物はもういないぞ」


「え、そうなんだ。もし野生の魔物殺したら罪になる?」


「罪にはならないが魔物愛護協会に怒られたりする」


 魔物愛護協会なんてものがあるのか、でも勇者に激甘なこの世界だったら多少の悪事は許されるんだろうな。

 でも悪い魔物でないならそれはイレギュラーになるしシステムの確認には使えないかもしれない。私が試したいのはあくまでゲームで戦闘中に使用できる裏技がこの世界にも通用するのかどうかだ。敵意のない野生の魔物なんてゲームで例えると、街の井戸の中とかにいる会話ができるタイプの穏やかなモンスターやフィールドの途中になぜかいる牛を殺そうとするようなものだろうし。

 できればゲーム内でも行われる普通の戦闘を見ておきたいんだけどな。


「・・・うーん、ぶっつけ本番は怖いな」


 私の知っている裏技はあくまでもゲーム中での話、この世界でも使えるかどうかはやってみないとわからない。魔王相手にそれを試すのは非常に恐ろしい。


「俺が剣を振るう所がみたいなら闘技場にでも行こうか?」


「なるほど!それはいいかも」

 あ、でも闘技場じゃ条件が満たされない。


「そうだ勇者!ビリオールの街に行こう!」


「ビリオール・・・あぁ、あのカジノの街か」


 カジノの街ビリオール、悪い魔物のいない世界でもそこに行けば私の考えが正解かどうかがわかる筈だ。




 さっそく私たちは魔王再戦の準備に取り掛かることにした。復活アイテムのヨミガエリソウやソロ攻略に必要なポーション類を一通り入手し、遠い街ビリオールへ向かう為に貸馬車屋に向かった。


「そういえば勇者、冒険中はもっと安い馬車を使っていたってヴィルマさんが言ってたけど今回はどうするつもりなの?」


 ビリオールは冒険が始まるリーヴェ領ではなくその隣のアイス領に位置する大きな街だ。ストーリー終盤に訪れる場所だし、昨日以上の長旅になるだろう。可能なら前回のような高級馬車で行きたいけど勇者の財布を全面的に頼る以上贅沢は言えない。


「今回は寝台馬車だからな、あまり値段の違いはない。トピアリウスの馬車屋で寝台馬車を取り扱っている店は一軒だけだ」


 寝台馬車。つまり寝台特急みたいに寝床つきの大きな馬車ということか。


「ビリオールまでは一日半はかかる、馬車で一晩明かす以上は寝台馬車を利用したほうが良いだろう」


「なるほど」


 そんな風に話をしていると街の外れの方にある馬車小屋に到着した。


「おおぉ!あれが寝台馬車か!」


 昨日乗った普通の馬車も初体験だったけど、寝台馬車はそれよりも大きな馬が二頭繋がれている大型馬車で、乗車部分に屋根も壁もついていてちょっとしたワンルームのようになっている。


「ふむ、数が少ないな。世界が平和になったから旅行者が増えて出払ってしまっているのだろうか」


「なんかキャンピングカーみたいでワクワクするなぁ」


「なんだそれは」


「キャンプが出来るカーだよ」


「わからないものをわからない言葉で説明しないでくれ・・・」


 うんざりする勇者を放っておいて馬車の近くに行ってみる。大きな箱を引く馬はどれも凛々しく頼もしい顔をしている。


「馬って結構優しい顔してるな・・・って、あれは!」


 私の目に飛び込んできたのは一頭の馬。一目散にそちらに駆け寄る。


「青眼に灰色のたてがみの白馬・・・これ、ローディング画面とかにいる馬車だ!」


 そこにいたのはブレファンの移動中ロード画面やMAPで馬車小屋を現すアイコンとして表示される馬車そっくりの馬だった。特徴的な深い青色の瞳に無駄に輝いている灰色のたてがみ、そしてひときわ目立つ白い毛並み、馬車部分が白っぽいところや薔薇が描かれているところまでゲームで見た通りだ。この見慣れ具合は、もはや一頭のキャラクターにすら思える。


 プレイヤーの中でブレファンの馬車と言えばこの馬、と言える程何度も見た馬車に思わずテンションがあがってしまう。もはや一頭のキャラクターにすら思える。


「なんだイブキ、急に興奮して」


「勇者、私この馬車がいいかも・・・だめかな?」


 勇者は不思議そうに馬車を見て首をかしげる。当然私が何故ここまで大喜びしているのか見当もつかない様子だ。


「別にどれも大した違いはないから構わないが・・・」


「やった!ロード中の馬だ!これにしよう!」


「・・・・・・いいのか?」


「もちろん!ありがとう勇者!」


 理解不能と言った顔で手続きに向かう勇者とゲーム画面でいやという程見た馬車に乗れることに驚喜する私を青眼灰色たてがみの白馬は不思議そうに見守っていた。


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