第7話 勇者、揺られる
先程の修羅場から二十分ほどした現在、リコリスちゃんとヴィルマさんも一緒に馬車に乗って移動している。四人乗っても大丈夫なのは無駄に金のあり余った勇者が大きめの馬車を雇っていてくれていたおかげだ。
「それでそれで?ヴィルマさんはどういうことがきっかけでリコリスちゃんを好きになったんですか?」
ローシャ村を滅ぼしてしまったので、とりあえず近くの街に行きたいという二人に付きそう馬車の中、私は推しとその嫁の馴れ初めを楽しんでいた。
「なんでイブキはそんなにあたし等の話を聞きたがるんだ・・・」
「いやぁ、私勇者パーティのファンなので!!!」
婚活異世界召喚の件を結婚した元仲間に説明するのはあまりにも勇者のプライドを傷つけてしまい可哀そうだと思った私は、魔王に苦しめられていた辺境の少数民族で勇者の新しい仲間という設定にしておいた。
「えぇと、好きになったきっかけかぁ・・・最初に会った時は貧弱だし碌に攻撃に参加できない役立たずだと思っていたんだが、ある日野宿の時に夜遅くまで薬の調合をやってるところを見かけて意外と陰で努力してるんだなって思って・・・」
そのイベント知っています、リコリスルートで見ました。勇者が夜遅くまで勉強したり調合をしているリコリスちゃんを見かけるやつですよね。今まで当たり前だと思っていた影の努力を初めて人に褒められて乙女の顔をするリコリスちゃんがえぐい可愛さのイベントです。
「そんなことをしていたのかリコリス」
「長旅に出ると薬の調合が間に合わない事がありましたから」
当の勇者はぐっすり寝ていたみたい。
「まぁそんな感じで一緒に夜更かしするようになって仲良くなった。んで、あたしが初めて知能のある魔物を殺した時に慰めてくれた時から・・・その、凄く頼りになる奴なんだなって意識してた、かもしれない」
そのイベント知っています、ヴィルマルートで見ました。狡猾なゴブリンメイジがありもしない家族の話を捏造し情に訴えかけて命乞いしてくるところですね。盗賊団に所属していた頃何度も人を傷つけて苦しんできたヴィルマさんがやっと悪事から足を洗って勇者パーティに加入したのに、正義の存在になっても尚誰かの幸せを奪わなくてはいけないと悩んでしまう。そんな風に自分の運命を悲しむヴィルマさんを勇者が慰めるやつですよね。魔物にまで慈悲の心をもってしまう意外とナイーブな一面が庇護欲をそそると現世では高評価なイベントです。
「知能があっても魔物は魔物じゃないか・・・喋る魔物を殺すのが嫌なら全部俺に任せればよかったのに」
喋る魔獣族を嫁にしようとした男が何を言っているんだ。
「そのあとお互いの生い立ちとかを話すのようになって、由緒正しい薬師一族で何不自由なく育ったお嬢様だと思っていたけど、あたしとはまた違った苦労も多いところとかに共感したりして・・・でもこれ好きになったきっかけか?わからん。別にこれっていうタイミングがあったわけじゃないしな」
照れてだんだん早口になるヴィルマさんが完全に乙女だ。しかし話を聞く限りリコリスちゃんとヴィルマさんはそれぞれのエンディングフラグイベントを勇者ではなくお互いでやっていたみたいだな。勇者旅の途中全然仲間との絆深めてないじゃん、すやすや寝ていただけじゃん。
「ふむふむ、リコリスちゃんはヴィルマさんのどういうところが素敵だと思いますか?やっぱりカッコいところですかね?」
「そうね・・・ヴィルマはかっこいいけど意外と可愛らしいところもあるの。そういった新鮮な一面に惹かれていったのかもしれないわ」
「はぁ!?こんな筋肉女に可愛いとかいうなよ」
「なるほど!ギャップ萌えですね」
「・・・・・・?」
女子トークをぼーっと聞いている勇者は退屈そうだ。
「でもローシャ村に私を迎えに来てくれた時は本当にかっこよかったわ、童話に出てくる王子様のようだったもの」
「いや、あれはやっぱりリコリスと離れたくないと思って衝動的に・・・というか村に行ったら村ごと全滅していて驚いたけど」
やっぱりローシャ村はリコリスちゃんの毒で滅ぼされちゃったんだ。少し展開が勇者の時と違うみたいだけど大まかな流れはゲームどおりなんだろうな。
「でもそんな私の愛を受け入れてくれたじゃない」
「そうだけど・・・」
私はてっきりかっこいい系のヴィルマさんがお淑やかなリコリスちゃんをリードしているのかと思ったけど、これは交際前と後で立場が逆転しているタイプのカップルだな。ぐいぐい来るリコリスちゃんもありだしなんならこの勇者とくっつくくらいならヴィルマさんと幸せになってくれて嬉しいまである。
「ごめんね勇者・・・私やっぱりこの二人を応援したい」
ヴィルマさんを好きなリコリスちゃんが一番輝いていると思います。二人の事は諦めたほうがいい。
「・・・・・・」
「あれ、勇者?」
「・・・・・・・・・・・・ぐぅ」
「ふふっ、デリックは寝ちゃったみたい」
ボックス席の馬車の中、私の隣に座っている居眠りした男がゆっくりとこちらにもたれかかってきた。勇者はやたらに背が高いので肩というより頭のあたりに重みがずっしりと来て非常に困る。
「おーい、重いんだけど。勇者?」
私の声なんて全く聞こえていないようで、勇者は呑気にぐうぐうと寝息で返事した。
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