7 豪華なカレー


小鳩さんのコメント「連日の投稿、おつかれさまです! いよいよ芽依の秘密に近づいてきましたね。若の葛藤している姿にドキドキします」

水晶の返信「ありがとうございます。どんな秘密が明かされるか、楽しみにしていて下さい」


ぴーさんのコメント「連休中、毎日二人のあまあまシーンで糖分を補給しています」

水晶の返信「これから、もっと甘々になりますので、糖分摂取過多になりませんようお気をつけ下さい」


 連休中はPV読まれた数が稼げるので、『わかとめいを巡る迷推理……?』を毎日投稿していた。合宿で書き溜めた分と同じだけ、公開してしまったことになる。それに合わせて、フォロワーさんから大量のコメントが来たので、連休最後の今日は自分の部屋でせっせと返信を書いていた。


 ゴールデンウィークの初日と二日目は、よしのんさんが家にやって来て、食事を作ってくれながらの書き溜め合宿をしていた。しかし、三日目以降は、お父さんが休みで昼間も家にいるということで、合宿はしていない。ほとんど口をきかないと言っても、やはり親は親ということだろう。

 初日の夜、あんなにめそめそして甘えて来たのが嘘のように、二日目はいつも通りのよしのんさんに戻って、散々いじり倒された。困ったものだが、内心ほっとしていたのも事実だ。

 これで一通り返信できたから、よしのんさんのツイートの方も見てみるか。


よしのんさんのツイート「昨日、恵比寿の高級フレンチレストランで、水晶つばささんと初めてリアルにお会いしました。想像していた通りの素敵な方でした!」


小鳩さんのリプライ「フレンチデートなんて、素敵すぎ! やっぱり水晶さんと、お付き合いするんですか?!」


よしのんさんのリプライ「さあ? ご想像にお任せします(笑)」


 うわっ、なんだこのツイートは? 日付はわざと一週間遅れにしているけど、デートなんて書くかな。自宅で手料理とか書くよりはいいけど。

 ソファで肩にもたれかかって来た時の、熱い感覚を思い出した。

 やっぱり、そういうつもりで家に来たのかな。「いくじなし」って、そういう意味だよな……


 ぼうっと考えているところに、突然、よしのんさんから通話着信が来た。あわてて応答ボタンを押したので、スマホを取り落としてしまう。


「ちょっと、なに? すごい音がしたんだけど」

「ご、ごめん。スマホ落っことした」

「もう。何やってんのよ。壊れなかった?」

「大丈夫。で、なに?」

「明日から、週二回の公開に戻すよね」

「そうだな。連休はもう終わるしな」

「じゃ、前と同じで、公開日は、午前に私で、午後に蓮君ね」

「了解。このペースだと、最終回は六月中旬か」

「そうね。多少、話数が増えるかもしれないけど、でも六月中には終わるんじゃない」


 すっかりこのペースでコラボするのが習慣になっていたが、また次の作品を始めないと途切れてしまうことになる。

 ただ、最近は成瀬さんのレビューで、コラボの方を書くのが遅れがちになっていたから、次の作品を相談する余裕はなさそうだった。


「あ、そうそう。六月一週目は修学旅行に行ってるから」

「どこ?」

「京都と奈良」

「へえ。中学の修学旅行で行ったばっかりだよ」

「え、中学で行ったのか?」

「うん。まあ、今の蓮君のレベルは、私の中学程度ってことね」

「あのなあ」


「蓮! ご飯よ」

 部屋の外から、母親の声がする。


「すまん。夕飯の時間になったけど、用事は公開日のことだけでよかったのか?」

「うん。用事はそれだけ」

「あ、そうだ。ツイート見たけど、フレンチレストランでデートって、なんだあれ?」

「うふふ。フォロワーさんにネタを提供してあげたの」

「大丈夫なのか? そんなことして」

「なんで? 次は、バーに連れて行ってもらったとかにしようかな」

「おいおい」

 なんか、フォロワーさんを騙して遊んでいるみたいだな。


「だんだん、水晶つばさとラブラブな感じにしたりして。そうだ! 水晶つばさのツイートでも、よしのんとデートしたって書いておいてよ!」

「ええっ?」

「だって不自然でしょ。こっちだけ書いてあったら」

「それはそうだけど……」


「冷めるよ!」

 また母親の声が聞こえる。

「わかったって。いま行く」


「ごめん、また呼ばれた」

「わかった。じゃ、おやすみ!」

「おやすみ」


 電話を切ってダイニングに行くと、いつものカレーの匂いがしてきた。しかし、テーブルに並んでいる皿の様子に違和感がある。 

「あれ? カレーの上に、何か山盛りに乗ってる。いつもの薄切り肉とニンジンのカレーと違う?」

「鶏の手羽元を圧力鍋でほろほろにしたのと、グリルした夏野菜を乗っけたから」

「どうしたんだ、これ? 街のカレー屋で出てきそうなメニューだけど」

 昨日も、ビーフストロがなんとかという、見たことのない料理が夕飯に出てきた。旅行から帰って来てから、夕飯になんだか凝ったメニューが出てくることが増えた気がする。リゾートホテルでご馳走を食べて、刺激されてきたのかな?


「新婚の頃は、よく作ってたのよ。最近やってなかっただけで」

「おお、懐かしいな。よく作ってたな」

 休暇で、すっかりリフレッシュした親父も、喜んでいる。

「なんで急に?」

「ふふ。昔のことを思い出したからよ」

「ふうん」

 まあ、銀婚式ってことで、二人きりで旅行してきたんだもんな。新婚の頃を思い出すってのもありかもな。


「お父さんも、若かったからね。いろいろ材料買ってきて、美味しいもの食べさせてあげようって頑張ってたのよ」

「今でも、俺は十分若いぞ」

「ちょっとそのお腹だと、あの時みたいな食事には戻せないわね。今日は特別だけど、明日からお父さんは野菜スープね。蓮は育ち盛りだから肉でもいいけど」

「おい、それは勘弁してくれよ」


「いただきます」

 鶏肉をひとくち、口にして驚いた。旨味のある肉が、舌の上でほろほろくずれていく。なんだよ、やればできるじゃん。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る