4 チーム西原
昨日の五時間目の修学旅行説明会の後、こちらを向いてニヤニヤしていた石沢さんは、何を考えていたんだろう? その後すぐに、いつものように教室に現れた小坂と一緒に帰って行ったから、何も話はできなかった。
「おはよう! 西原君」
「おはよう」
そう思っていると、当の本人が近づいてくる。
「昨日の修学旅行の班のことなんだけど、西原君は、誰と組むか決めてる?」
「いや、まだ決めてない」
「じゃあ、私と組まない?」
「いいよ」
石沢さんなら、気心が知れているからいい。でも小坂には、ちゃんと言っておかないとな。
「よかった! あのね、作戦があるの」
「作戦?」
「そう。昨日、湊君と相談したんだけど」
小坂には相談済みか。なら心配ないな。
「湊君には、二組でナルちゃんと組んでもらって、自由行動の計画は同じ場所を回ることにするの。そうすれば、仲のいい人でまとまって行動できるでしょ?」
「なるほど。小坂と一緒に回りたい作戦か。賢いな」
「うふふ」
そうなると、小坂と石沢さんは、ずっとくっついているだろうから、必然的に俺は成瀬さんと並んで歩くことになるのか。なぜか顔が熱くなってきた。いやいやいや、なんでもないだろ成瀬さんとは。
「班は四人って言われたけど、後の二人は誰にする?」
「それもね、一人は杏奈さんはどうかな、と思ってて。湊君には相談してないんだけど」
「杏奈さん?」
確かに美郷との一件は、杏奈さんの忠告があったから解決できたわけだし。あれから、少なくとも杏奈さんには、あっち行けとか言われなくなったし。でも、同じ班で一緒に行動する?
「なんか呼んだ?」
後ろから杏奈さんが声をかけてきた。
「ね、ね、杏奈さん、修学旅行の班、誰と組むか決めた?」
「まだ決めてないよ」
「よかったー。私と一緒に組もう。西原君も一緒だよ」
「西原ね。ま、いいか。どうせこっちのクラスには、誰もつるんでいる奴いないし」
「やった! 決まり」
ほっ。なんでこんなキモオタと、とか言われなくてよかった。
「杏奈さんのお友達は、二組にいたよね」
「ああ。
「じゃあ湊君に、その二人と組んでもらうように頼んでこないと」
「小坂と? なんで?」
「湊君の班と、私たちの班で同じ所を回るように計画すれば、一緒に行けるでしょ? 杏奈さんも友達と一緒になれるし」
杏奈さんは、感心したように腕を組んで、長いまつ毛でまばたきした。
「石沢ちゃんって、実はけっこう策士だな」
「え、そうかなあ? でも、そうと決まれば、すぐに湊君に話してこなきゃ」
石沢さんは、ぱたぱたと教室を出て行った。
***
石沢さんの後について二組の教室に行くと、小坂は教室の真ん中あたりに座っていた。
「ね、湊君」
「おう、結衣じゃん。どうした?」
「あのね、修学旅行の班のことなんだけど」
「おお」
「西原君と杏奈さんと一緒になったから」
「うん、そうか。予定通りだな。って、あ、杏奈!?」
「そう。杏奈さんもいいって」
意外な人物が入っていて、驚いたようだった。
「ラスボスも一緒か……。えっ、てことはまさか?」
「そうだよ。杏奈さんの友達と班を組んでね」
「ちょ、ちょっと待てよ。あのギャル達と組めってのか?」
「うん。そうすれば、みんな一緒に行動できるでしょ?」
「勘弁してくれよー。今朝もギャンギャンやり合ったばっかりだし……。成瀬も、あいつらとは犬猿の仲だぞ」
「ナルちゃんは、大人だから大丈夫」
石沢さんは、自信満々に断言した。
「いや、俺にはとても無理だ」
「それじゃ困るんだけど……。わかった。私が代わりに言ってきてあげる」
石沢さんは、ギャル達のところへ行って話し始めた。彼女らも、最初はうんうんとうなずいていたが、石沢さんがこちらを向いてひとこと言ったとたん、絶叫した。
「えー! あり得ないー! あんなキモオタと一緒に行動しろって」
「石沢ちゃんの彼氏なのは知ってるから、あんまり悪く言いたくはないけど、でもあいつと組むのは無理」
石沢さんがまた何か言っているが、ギャル達の騒ぎは収まらない。
「杏奈がいいって言ってる? そんなのあり得ない!」
「ちょっと待って。いくらなんでも」
大騒ぎしているところに、杏奈さんが入って来た。
「ちょっと、杏奈。石沢ちゃんから聞いたんだけど、キモオタと一緒の班って、本気?」
「ああ、そうだよ。いいじゃん。合流したらシャッフルしちゃって、石沢ちゃんたちはまとまって好きなところ行って、ウチらはウチらで遊びに行けば」
「そ、そうか。ずっと一緒にいなくてもいいのか」
「難しく考えなくても、よくね?」
先生に出す計画は無視ってことか。さすが杏奈さんだな。
「わかった。杏奈がそう言うなら、そうしようか」
「杏奈さん、ありがとう!」
石沢さんはニコニコしているが、当の小坂とギャル達は、バチバチ睨みあっている。本当に大丈夫かな……
「あと一人はどうする? 班は四人で組まないといけないんだよな」
一組の教室に戻りながら聞いてみる。他に親しい同級生はいないし。
教室に入ると、石沢さんは座席を見渡しながら首をかしげた。
「そうね、あと一人……。山本さんはどう?」
「山本って、誰だ?」
「あの、杏奈さんの隣の子」
石沢さんが指差している先をたどると、初日に、英語の雑誌を読んでいた子だった。
「見てるとね、あんまり友達いなそうな感じがするの。他の子は、みんな一人か二人は友達がいて、組んでるでしょ? あと一人だけ入れるなら、あんまり友達のいなそうな人しかないかなって」
「論理的で正しいけど、わざわざ友達いなそうなのと組むって、どうなの?」
「気にしない、気にしない。そんな悪い子じゃないよ、きっと」
石沢さんは、そのまま山本さんのところに歩いていって話しかけた。今日は、いつになく積極的だ。修学旅行で、小坂と一緒に行動したい一心てことなのかな。
山本さんが、石沢さんと一緒にこちらを向いたが、特に反発している感じはなかった。さっきのギャル達と違って、ギャーギャー言われないのがありがたい。
「よーし、これで揃ったね。チーム西原、全員集合!」
自分の席に着くと、横に立った石沢さんが号令をかけるように呼びかけてきた。後ろには杏奈さん、その隣は山本さん。
「いや、おい、勝手に俺の名前をチーム名にするなよ」
「いいじゃない。紅一点ならぬ黒一点なんだし。みんなよろしくね!」
うちの班、俺以外全員女子ってマジか? 元々、理系クラスは女子が少なくて、男子だけの班もありとか言ってたのに。まだ話したこともない男子が、冷たい目線でこっち見てる。
やばいぞこれは。
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