3 ゴールデンウィークの申し出

 部活終わりのチャイムが鳴るまで成瀬さんとレビューを続け、家に帰って来ると七時になっていた。

 とりあえず自分の部屋に入り、よしのんさんのメッセージに返信する。メッセージが来てからすっかり遅くなったので、直接、電話で話をするのは気が引けた。


西原> 今日の書き溜め分、もう少し待って。明日には上げるから。

よしのん> わかった。芽依の思いが分からなくて若が悩むって、難しいところだからね。

よしのん> まだ公開には余裕あるし、大丈夫だよ。

 よしのんさんからは、すぐに返信が返って来た。こっちの応答を待っていたのかもしれない。


西原> 遅れないように頑張る。

よしのん> 高三になって、忙しい? 受験勉強で大変だったりする?

西原> いや、まだそんなじゃないから平気。

よしのん> 大変そうなら言ってよ。公開ペースを落としてもいいし。

西原> ありがとう。


 実際は、成瀬さんの小説レビューで放課後いっぱい使っていたから、全然手をつけてないだけだった。以前なら、図書館か駅前のハンバーガー屋で書いて、家に帰る前に仕上げていたのだが。

 受験勉強で大変か、なんて気をつかって、やっぱり根は優しくていい子なんだよな。


よしのん> ところで、GWはいつも通り、ぼっちで引きこもり?

西原> ほっとけ。

 やっぱり、優しくていい子説は撤回。


西原> GWは、家族がみんな旅行に行くから、俺一人で留守番の予定。

よしのん> え? みんな出かけちゃうの?

西原> ああ。みんなと言っても親が出かけるだけだよ。


 メッセージの返信ではなく、直接電話がかかってきた。


「ね、ね、それじゃリアルぼっちじゃない。寂しくない? 食事は?」

「まあ、近所にミニスーパーあるから、惣菜でも弁当でも買ってくればなんとかなるし」

「じゃあ可哀想だから、お姉さまがご飯作りに行ってあげようか」

「へ? ご飯作り? よしのんさんが?」

「そうよ。ありがたくて涙が出てくるでしょ」

「お前、料理なんてできるのか?」

「失礼しちゃうわね! 家の食事は毎日、私が作ってるんだからね」

 なんだか、意外なことを言ってきたぞ。


「家の食事は作ってるって、両親は? お母さんは作らないの?」

「あんな奴、親じゃないし」

「そんな言い方したらだめだろう」

「うるさい! 人の家のことには口出さないで」

「ご、ごめん。でもわざわざ来ることもないよ」

 どうも親の話になると怒られるな。


「邪魔が入らないんなら、缶詰になって『わかとめい』を集中的に書くのもいいんじゃない?」

「缶詰?」

「そう。あ、でも缶詰って大作家先生みたいだから、どっちかって言うと合宿?」

「合宿ねえ」

「うん。そうしよう。食事は作ってあげるから、その代わり蓮君は集中して書く。最近サボり気味だから」

「俺が書いている間は、よしのんさんはどうしてるつもり?」

「蓮君の書いたのを、横で朗読しながらダメ出しするとか、誤字をリアルタイムで指差し指摘するとか……」

「やめてくれ。来なくていいよ」

 そんなことされたら、精神的なダメージが大きすぎる。


「うそうそ。そんなことしないから。蓮君の担当分が書けたら、すぐに続きを書いちゃえば、効率いいでしょ」

「それはそうだが」

「よし! 決まり」

「ほ、本気か?」

「本気よ。とにかくゴールデン・ウィークは合宿だから、覚悟しなさいよ」

 なんだかノリノリだけど、大丈夫なのかな……


***


「最後に、修学旅行の二日目に、半日の自由行動の時間がある。自由行動と言っても、班ごとにまとまって行動すること。行き先については、事前に計画を立てて提出するように」


 配られた旅行のしおりを見ながら、担任の先生の説明が淡々と続いていた。修学旅行は、六月の第一週目に予定されている。五時間目は、その旅行日程と準備の説明。


「各班は、四名で編成する。どう組むかはクラスの中で調整して決めて、来週中に報告すること。その後、班ごとに行動計画を立てて、五月三十日までに先生に提出すること」

 班は自分達で勝手に決めろってことか。小坂もいないし、どうしたものかな。


「説明は以上で終わりだが、何か質問はあるか」

「先生! 班は、男子と女子別々で組んでいいですか?」

「このクラスは男子の方がずっと多いから、男子だけの班でも構わないぞ」


「どうする?」

「男子だけの方が気楽でいいよな」

「つまんなくね? 誰か女子入れようぜ」

「誰か入ってくれそうなのいるのか」

「あの子、かわいいから声かけてみよう」

「綾乃、女子だけの班にしよう」

「え、京子、いいの?」

「あと、あかりちゃんもね」

 教室中が、ざわざわと大騒ぎになった。


「静かに! 班はどうやって組んでもいいが、四人ずつになるようにクラスで自主的に調整すること! 他に質問がなければ、これで終了する。日直、号令」

「起立、気をつけ、礼」

 礼が終わると、また教室中がざわざわし始めた。班は自由と言われても、クラス替えしたばかりで、同級生はほとんど口きいたことないやつばかりだし。どうしようかな。


 ふと気がつくと、石沢さんがこちらを振り向いていて、目が合った。

 なんかニヤニヤしてるけど、なんだ?

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