11 バレた
よしのんさんのツイート「お待たせしました。しばらくお休みしていた『わかとめいを巡る迷推理……?』ですが、今日から再開します!」
修正プロットを受け入れてくれると、その日の夜から、よしのんさんは怒涛のように続きを書き始めた。俺の担当分を送ると、一時間で次が返って来る。先の方まで、すでに頭の中で文章ができあがっているようだった。
よしのん> 早く続き書きなさいよ! こっちは次の次まで草稿があるんだから。
水晶> わかった、わかった。できるだけ早く上げるから。
よしのん> 今まで2週間サボってたんだから、その分取り戻しなさいよね。
サボってたわけじゃないし。勝手に休載にしたの、そっちだろ、と内心ツッコミながら、またコラボで書けるのは想像していた以上に楽しかった。
週明け月曜日の連載再開にあたっては、よしのんさんの回と俺の回を連続して投稿していた。久しぶりなので、ボリュームを出してインパクトを出そうという作戦だ。それに応えて、いつものフォロワーさん達が一斉に歓迎コメントを書いてくれている。
小鳩さんのコメント「よしのんさん、水晶つばささん、またお二人のコラボ作品が読めるようになって、本当に嬉しいです。頑張って下さい!」
えるさんのコメント「謎が深まってきてドキドキしています。これで今日も頑張れます」
ぴーさんのコメント「お二人の協同作業自体が尊いです。」
さくらん坊さんのコメント「待ってました! 連載再開、ありがとうございます!」
さくらん坊さんか。
教室の後ろを見ると、ちょうど、スマホを熱心に見ながら成瀬さんが教室に入って来るところだった。歩きながらコメントを書いていたのかもしれない。まさか作者が、さくらん坊さんが誰だか知っているなんて、ぜんぜん考えてないだろうな。
よしのんさん> どう? すごい反応でしょ。
水晶> ああ。忘れられてなかったみたいで良かったよ。
よしのん> ふん。忘れられてるわけないでしょ!
「ねえ、西原さん」
「おわっ!」
あわててスマホを裏返す。いつの間にか、成瀬さんがすぐ横に来ていた。
「よしのんさんと水晶さんの! コラボ! 再開しましたね!」
「そ、そうだね」
「ああ。本当に良かった。二人がケンカでもしていて、永遠に再開しなかったらどうしようと思っていました」
「大丈夫だろうって言っただろ?」
「西原さんの言う通りでした」
成瀬さんは言いたいことを言うと、満足そうに席に戻って行った。危ないあぶない。よしのんさんとのメッセージ画面を見られたら大変なことになる。
***
さくらん坊さんのコメント「また今日の展開はハラハラしますね。芽依に付き合っていた元彼がいたなんて。この先の展開が楽しみです」
水晶の返信コメント「コメントどうもありがとうございます。どうぞ期待していて下さい。もっと謎が深まっていきますよ」
ようやく全部のコメントに返信した時には、三時間目の休み時間も終わりそうになっていた。常連さんたちのコメント一つ一つに、丁寧に返信を書いていると、あっと言う間に時間が過ぎてしまう。今日は朝からずっと机に座ったままで、トイレにも行っていなかった。
さくらん坊さんも、休み時間のたびに、よしのんさんと俺のそれぞれにコメントを書いてくれていた。いや、コメントのタイムスタンプを見ると、俺の作品へのコメントは授業中に書いたようだった。授業を聞かないでスマホで小説を読んでいるなんて、教室の後ろの方だとは言え、結構大胆だ。
しかし、さすがに我慢できなくなってきたので、トイレに行くことにする。冗談抜きでちびりそう……
***
朝のうちにもらったコメントには、休み時間に全部返信しておいたが、昼休みになるとまた増えていた。昼休みにネット小説を読んでいる人は、やはり多いと見える。いつものように、売店で買ってきたサンドイッチを食べながら返信を書いていると、メッセージが着信した。
さくらん坊> こんにちは。さくらん坊です。いきなりダイレクトメッセージを送ってしまってごめんなさい。
え、ええっ?
さくらん坊さんからダイレクトメッセージ?
SNSのメッセージは、特に拒否設定をしていないから誰でも送ってくることはできる。でも、今までダイレクトメッセージを送ってきたのは、よしのんさんだけだった。
水晶> こんにちは。大丈夫ですよ。
さくらん坊> あの、聞きたいことがあるのですが、SNSでオープンに聞くのは良くないと思ったので、ダイレクトメッセージにしました。
水晶> 聞きたいことって、何ですか?
さくらん坊> 重要な事ですので、落ち着いてよく聞いて下さい。
水晶> はい。
な、なんだ重要なことって?
さくらん坊> 今、あなたの後ろにいる女性は、誰ですか?
えっ? 後ろ? 思わず後ろを振り向くと、成瀬さんと目が合った。その瞬間、大失敗したことに気がついた。
さくらん坊> やっぱり。水晶つばささんは、西原さんだったんですね?
ば、バレた!
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