2 偽者ダブルデート
「なにふざけたこと言ってるの? ありえないでしょ」
「ごめん。そこをなんとか。頼む!」
「なんで私が蓮君の彼女役になって、グループデートに付き合わなきゃいけないの?」
家に帰ってから、よしのんさんに電話をかけて頼んでみたが、予想通りバッサリ断られた。でも、ここで引き下がるわけにはいかない。
「そうだよな。迷惑だよな。でも頼める人は、よしのんさんしかいないんだよ」
「ほんと、ボッチ小僧なんだから。普通のデートに誘うならともかく、グループとかあり得ないでしょ」
「だよな……。って普通のデートならいいのか?」
「ひ、比較の問題だって」
なんとか説得しないと。石沢さんにも期待させてしまったから、いまさら後には引けない。
「一日だけでいいから。なにか交換条件があれば呑む」
「交換条件? そうねえ。どんな条件なら、そんなふざけた話に釣り合うかしら」
なんか、すごい条件を出されそうだぞ。
「で、できることと、できないことがあるけど。できることならやるから」
「まず、よしのんという名前は、他の人に言わない。仮名を使うからそれで呼んで」
「わかった」
「小説を書いていることも秘密。絶対に言わないで」
「わかった。言わない」
「食事代、お茶代、入場料とか現地でかかるお金は、全部蓮君持ち」
「そ、そうだな」
「以上」
「え? 条件って、それだけ?」
なんだ、全然大したことない条件ばっかりじゃないか。もっとすごいこと言われるかと思ったけど。
「うん。これが条件」
「そんなので、本当にいいのか? スイーツ食べ放題に連れて行けとかじゃなくて?」
「食べ放題なんて太っちゃうじゃない。いらないわよ」
「えっと、他に……」
「嫌ならいいんだよ。一人で行けば?」
「いやいや、わかった。条件は全部のむ。で、仮名って、なんて呼べばいいんだ?」
「
「わかった。百合さんね」
良かった。これで石沢さんにも面目が立つ。
「で、いつ行くの?」
「これから決めるけど、よしのんさんの都合の悪い週末は避けるから、先に教えてくれるかな」
「別に、週末ならいつでも。特にこの日はダメってのはないから」
「そうか……。いつでもいいか……」
「いま、やっぱりお前もボッチだろとか思ったな?」
「思ってない。ぜんぜん思ってない。かけらもそんなこと思ってないから」
思ったけど。機嫌を損ねるわけにはいかないから言わない。
***
「おっす! 蓮。来るの早いな」
「おす」
よしのんさんが来たときに困らないように、待ち合わせ場所には、約束より三十分前に来ていた。今日は遊園地で一日遊ぶ計画なので、遊園地の最寄り駅改札前が集合場所だ。
しかし、よりによってバレンタインデー当日を合同デートにするとは。石沢さんは、きっと張り切ってすごいチョコレートを準備して来るだろう。よしのんさんに日程を連絡した時に、きっと向こうの二人はそうするはずと話しておいたが、わかったと言われただけだった。
「楽しみだな。どんなバーチャル彼女か。あ、そのスマホにいるのか?」
「違うよ」
「おはよう。湊君。西原君」
「おっはよう、結衣!」
石沢さんは、シンプルなブラウスとスカートに、ふんわりとしたショールを巻いたスタイルでやって来た。制服の時のまじめそうな雰囲気と違って、結構かわいい。もしかすると、ちょっとメイクもしているかもしれない。
「西原君の彼女さん、どんな人かな。楽しみだな」
「本当に来るのか?」
「大丈夫だよ」
大遅刻の前科はあるけど。今日は大丈夫だよな。
電車が到着し、ホームにつながる階段からどっと降りて来る人の中に、ひときわ目立つよしのんさんの姿が見えた。白地に水色のストライプのワンピースに、淡いピンクのベレー帽。細いストラップの小さなバッグを斜め掛けにしているという、実に少女チックなスタイルだ。
「おはよう! 蓮君」
改札を出ると、にこやかな笑顔で近づいてきた。
「お、おう」
「何それ。おはようって言ってるんだから、返事は、おはようでしょ。もう、あいさつしてあげないよっ」
よしのんさんは、ぷっと口を尖らせた。
「ごめん。お、おはよう」
「え、え、え」
目を丸くしてうろたえている小坂の声で、よしのんさんは他の二人がすぐ近くにいることに気が付いたようだった。その途端、俺の後ろにさっと隠れて袖をつまみながら、小声でささやいて来た。
「ね、蓮君。……お友達に紹介してもらえる?」
お、お前、その態度の変わり方。あざといっ! あざと過ぎるぞ!
冷や汗をかきながら、つままれた袖を前に引っ張り出して紹介する。
「えっと、彼女が百合良子さん」
「初めまして。百合です。よろしくお願いします」
おずおずと前に出てきて自己紹介するが、いつもと全然様子が違う。こいつ天才子役か?
「初めまして。石沢結衣です。よろしくね」
にっこり微笑むよしのんさん。いや、百合さん。
「こ、小坂湊です。よろしく」
「いつも蓮君から、お話を聞いてます。先輩達にお会いできるのを、楽しみにしていました」
上目遣いで、にっこり微笑む百合さん。
「先輩って、百合さんは何年生なの?」
「中学三年です」
「ちゅ、中学生!?」
小坂に、いきなりがっと頭を掴まれた。
「おい! 蓮! こんなツンデレ・妹キャラ・美少女の完璧トリプルコンボ決めた彼女を、なんで隠してた」
「いててて。隠してたんじゃなくて、最近できたんだって」
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