4 告白と拒絶

 第一話と二話を公開した翌朝、昨日一日の反応をチェックしている。俺の書いた第二話も、今までの自分の作品とは比較にならないPV数読まれた数とコメント数の伸びだった。


小鳩さんのコメント「よしのんさんと、水晶つばささんがコラボとか、神過ぎ!」


さくらん坊さんのコメント「はじめまして。よしのんさんの小説から来ました。二人のきゅんが合わさってとっても素敵です」


ぴーさんのコメント「初見です。朝から何て尊いものを……鼻血が止まりません」


 俺の元々のフォロワーさんに加えて、よしのんさんのフォロワーがどっと流れて来た感じだった。


よしのん> 順調に作品をフォローする方が増えてますね。私の方のコメントに、水晶さんのフォロワーでした、という人もちらほら来ていますよ。

水晶> こちらも、フォロワーがものすごく増えました。ほとんどが、よしのんさんのフォロワーだった人だと思います。


 気が付くと、石沢さんが席の前に立ってこちらを見ていた。

「ねえ、西原君。今日はずいぶん機嫌が良さそうじゃない。何かいいことがあったの?」

「な、なんにも無いよ」

 あわてて立ち上がる。

「そう? なんかスマホみてニヤニヤしてたから」

「なんでもないって。ト、トイレ行ってくる」

 焦りながら教室を出た。危ないあぶない。小説を書いていることがバレたりしたら大変だ。あいつもきっと、内心では俺のことバカにしてるんだろうし、何を言われるかわからない。


***


 昼休みは、グラウンドに出てきた。十二月も半ばを過ぎると風が冷たいが、天気は良いので、あちこちにたむろしているグループがいる。

 次に書く展開は、キャンパスを歩いている碧に別の女子が告白して来て、それを遠くで目撃した葵が誤解することになっている。しかし、女子から急に何か言われる時は、キモいとか、あっち行けと罵倒されることしかなく、告白されるという状況は想像がつかなかった。

 ふと石沢さんの顔が浮かぶ。石沢さんには、キモいと言われたことはない。でも告白なんかには程遠いのは一緒だ。


 グラウンドで楽しそうに話をしている、男女のグループを観察していると、いきなり後ろから頭を叩かれた。こんなことをするのは小坂しかいない。

「おう、蓮。こんなとこで何一人でマスかいてるんだ?」

「だから、すぐ下ネタにするのやめろって」

「俺とお前の仲じゃないか。何照れてんだよ」

 腕を頭に回して、ぐりぐり締められる。

「いててて。やめろって。お前相手に照れるわけないだろ」


 輪になって話をしていた男女のグループから、一人の男子が離れて歩いて来た。同じクラスの美郷 爽みさと そうだ。いわゆるイケメンで、いつも周りには女子が群がっている。


「モテない男どうし二人が、とうとう付き合い出したか」

「モテる美郷さんは、今日はどの子とヤリに行くのかね?」

「そうだな。決めてないけど、また校門で適当に見繕っていく感じかな」

「羨ましい限りだね。でも、そのうち刺されても知らないぜ」

 笑いながら立ち去っていく美郷。


「ケッ! ほんとあいつ最低だな」

 いなくなると、急に小坂の表情が変わった。

「モテる奴はすごいな」

「でもな、あいつに遊ばれて、泣かされた女子がすげえ一杯いるの知ってるか?」

「知らない。そうなのか?」

 怒りを含んだ小坂の言い方に、ちょっと驚いた。

「ああ、同級生でも後輩でも、すぐ手をつけてその気にさせといて、突然すげえ冷たくするらしいぜ」

「なんだそれ? ひどいな……」

 俺の小説には、ちょっと出せないタイプの男だ。何が楽しくてそんなことするんだろう?


「そういうのって、女子から告白してるのかな?」

「知らないけど、そういうのもいるんじゃないか」

「どういう風に告白してるんだろう。アニメだと校舎裏に呼び出して、お願いしますっとか頭下げてるけど、あんななのかな」

 小坂は、冷たい視線で俺を見下ろしてきた。

「お前のところには、そんな呼び出し絶対来ねえから安心しろ」

「わかってるよ」


 リアルな告白って、どんな風なんだろう。一度見てみたいけど、誰かやってないかな。


***


 放課後は図書館にこもっていたが、よしのんさんの雰囲気に合わせた告白シーンがどうしても書けない。今までの俺の小説では、告白シーンはすっ飛ばしていたから書いたことがない。なんとかイメージを膨らませるために、実際にありそうな場所に来て雰囲気を確かめようと、校舎裏に来てみた。

 校舎の角を曲がると、普段は人通りがないゴミ捨て場につながる通路に、誰かがいた。男子と女子の二人。これはもしかして、告白タイム?

 物陰に隠れて様子をうかがうことにした。


「どうして、急に冷たくなったの? 全然帰りも一緒に帰ってくれないし」

「ああ、なんか一緒にいても、もうつまんないというか」

「つまんない? ごめんなさい。もっと楽しいことするようにするね。カラオケとか?」

「いや、カラオケ行くのは、いくらでも友達いるからいいんだけど。なんか、もうドキドキしないんだよな」

「え……」


 なんか雰囲気が違う。これ、告白じゃないぞ。


「手をつないでも、キスしても、なんも感じないっつうか」

「え、でも、あの時は好きだって……」

「ああ、ホテル行った時はそうだったな。すごくドキドキしたし、好きだった」

「どうすればいい……? なんでもする」

「なんか、飽きちゃったんだよね。君はぜんぜん悪くないんだけどさ」

「え……」


 ホ、ホテル? キス?


「もう、別れようぜ。その方がお互いのためだし」

「嘘! 嘘! なんで?」

「だから、もうドキドキしないから」

「なんでもするから。ドキドキするように、おしゃれもするし」

「そういうんじゃないんだよね。お前も、他にもいい奴見つかるだろうし。じゃ」

「待って! 待って!」


 目の前を、美郷が歩いて行った。後に残された女子は、その場で泣き崩れている。

 やばいとこに来ちまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る