第38話 作戦変更

 李仁と湊音は部屋に戻り順番にシャワーをしてリビングへ。

「まさかシバがシッターさんなんて」

「確か前の結婚の時に仕事辞めてから奥さんにベビーシッターの資格取れって言われてーというのは聞いてたけどあんな風貌でやってたとは」

 李仁はプロテインと豆乳を混ぜてゆっくり飲む。湊音はぐびぐびと。


 二人は驚きを隠せないままでいた。昨日までわしゃわしゃだった髪の毛はきっちり固めてオールバックで上からバンダナで巻いて、無精髭もしっかり剃っていた。

 どうやら今まで李仁と湊音のトレーニング日のほぼ丸一日をシバがシッターをしていたという事実に二人は驚いている。


 そしてあの食パンだが……。


「よく考えたら一斤まるごとなんて食べられないわよねー。明里の子供たちに持っていったって……」

「まぁその半分は食べたんでしょ、シバが」

「ミナくん、まだ食パンの恨みあり……体重増えてるって言われたからパンはお預けにしましょう」

 湊音は少し拗ねている。李仁はプロテインのカップ二人分を流しで洗い、昼ごはんの準備に取り掛かる。


「ミナくん、とろろ蕎麦でいいよねー」

「うん。とろろ擦るね」

「明里に元気ないって言われたから元気つけないとね!」

「一部だけが元気になるだろ」

「もぉー、作る前から元気になってる……」

「触んなよ……ばかっ」

 と台所でいちゃついていると李仁のスマホに電話がかかってきた。シバである。


「もぉっ、いいところで……はーいはい」

 李仁が電話に出る。隣では湊音が寄り添って李仁の体を服の上から触っている。

『さっきはびっくりしたな』

「そうね、まさか明里と知り合いだったなんて。もしかしてバツイチの子持ちって彼女のこと?」

 湊音は会話の合間をぬって李仁の唇にキスをする。手は李仁の体を触りながら。スマホの音を大きくして湊音に聞こえるようにして会話を続ける。


『ん、ま……まぁな。一応お客様だでなー明里さんは』

「キスはしたの?」

 そういう李仁は湊音のイチャイチャ攻撃に応えている。


『一回そういう雰囲気になって……風呂場でヤッたけど、それ以降は……』

「子供がいるからできない、てわけね。付き合うとかはしないの?」

『……なんかなぁ。雇い主と雇われの関係なわけでさ、進展しない』

 シバらしくないと李仁は笑う。その横で湊音はさらに、激しくボディタッチをしている。かなりスイッチオンしているようだ。


『まぁ、今夜帰ってきたら話したいけど……さぁ』

 すると李仁が湊音の手の動きを止めた。

「あ、いいこと思いついた……そっちに晩御飯持って行くから夜、明里と子供たちとでご飯食べたら? で、夜もお泊まりして……」

『……おお、いい提案だなぁ。それよろしく頼む。ってじゃあそろそろ子供たちのとこ戻るわー』

 と最後は早口になるシバ。そして電話もブチっと切れた。

 そこにすかさず湊音が李仁に抱きつく。そして彼は笑った。


「そうやってシバを追い出す作戦?」

「追い出すって言い方悪いわね」

「でも告白に失敗して居候できなかったらまた戻ってくるよー」

「まぁー、あのシバに堕ちない女はいないわよ。何持っていこうかしらー」

 李仁は一人ルンルンである。


「それよりも、とろろ蕎麦……」

 湊音はぎゅっと李仁を抱きしめる。

「その前に……? ふふふ」

「二人のために山芋残しておかなきゃ」

「大丈夫、2本あるから」

「元々2本あったんだ……そんなに精力つけてどうするつもりだったの?」

 二人はたくさんキスをする。時に笑いながら……激しく、ねちっこく。

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