第36話 習慣
朝起きるとシバはいなかった。リビングの机の上に雑にメモ書きが置いてあった。
『仕事、夕方には帰る。P.S.まだ次の行き先は見つからん シバ』
「朝ごはん食べたかしら」
寝癖のある髪を触りながら李仁は台所に行くと湊音が少しがっかりした顔をしている。
「ミナくんどうしたの」
「やられた。今朝食べようと思ってたパン一斤丸ごと無くなってる」
湊音の握ってるのは一斤のパンが入っていた袋だ。流しにカップとバターナイフがある。
李仁はもしかしてと冷蔵庫を見る。嫌な予感は的中していた。
「バターやチーズも無いからつけて食べたんだよ……日曜日の朝のお楽しみの厚切りトーストぉ」
二人はがっくり。体調管理のためになるべくパンを食べる回数を減らしてご飯中心にしていたのだが、毎週一回日曜の朝だけパンの日にし、その時はとびっきり美味しいパンを選んで買って食べるのである。
それが二人にとって幸せだったのだが、厄介者シバはそれをつゆ知らずぶち壊したのだ。
「むーっ! 晩御飯作ってやんない!」
湊音はぷりぷりと起こりながら冷凍庫にあったピラフをお皿に入れて温める。
「まぁしょうがない。それに今日はあの日でしょ」
李仁は苦笑い。湊音は頷く。
あの日とは……二人は数年前からジム通いをして体調や健康管理をしてきた。
そしてここ数年はパーソナルトレーナーをつけている。今日は二週間に一回のトレーニングである。
二人はご飯を食べてシャワーを浴びトレーニングウェアに着替えた。マンションの共同ジムがあり、併設してるスタジオに入る。
「おはよっ、二人とも」
そこにはもう人がいた。へそだしのトレーニングウェアを着た小柄の女性。
「ほんと相変わらず朝から元気ね」
李仁と湊音は少し寝不足。彼女は溌剌な笑顔で二人を出迎えた。
二人のパーソナルトレーナーでもあり、湊音とだいぶ前の婚活パーティーで出会い一時期付き合っていた水城明里である。もうかれこれ10年近くの仲である。
「もー、朝からテンション上げていかないと。私はこのあと夜7時まで体動かすのが楽しみでしょうがないの」
「さすが売れっ子トレーナー」
「これでもかつかつかのよ、さぁ準備体操から!」
テンションが全く違う。明里はテンションの低い二人の背中を叩き音楽を流した。
「なんかやたらと元気よすぎない」
「男でもできたんじゃない?」
と、二人は各々の位置についた。
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