第14話 そちらの誘惑
李仁はまた仕事帰りにバーに立ち寄る。湊音に遅くなると言って理由をつけてくるペースが増えた。
以前彼が働いていたバーであったが経営者も従業員も変わり、店内も雰囲気は変わってしまった。そして前よりも店員が話しかけることも無くなった。
それはそれで今の李仁にはちょうどそれが良い、と居心地が良さそうである。
隅の席で彼はタバコと一緒にワインを嗜む。タバコはとうにやめたはずなのだが……。
「課長、またここに」
「麻衣ちゃん……あなたこそ」
ここ最近麻衣とも合流するようになった李仁。隣に座った麻衣はビールを頼み、タバコに火をつけた。
彼女も日頃の仕事のストレスを発散しにこのバーに行き始めたところで元々ここのバーの常連だった李仁と会ったのだ。
「おうちで待ってるんじゃないんですか?」
麻衣は李仁のパートナーである湊音のことを案ずると
「ん? 遅くなるって言ったわ」
と李仁はサラッと返した。
「って仕事もないのってわかってて寄り道バレバレですよ」
「そうね、結婚前もそんな感じだったし」
「前科ありますよね」
なんだか二人は店で一緒になるに連れて上司と部下であるのをこの店では忘れてタメ口で会話を交わす。
会話もタバコの煙も混じり合い仕事以上に会話が弾む。
「恵山さん、きっと今生理なのよ。すっごく八つ当たりしてくるんです」
「それは昔からなの。女の子だから月のものが来て不安定になるのはしょうがないけど病院にも行かない、薬を飲んでコントロールしない……周りに迷惑かけてるのわかってないのよ」
「……困る」
李仁は恵山とは長い間一緒に働いているため色々と知っていて仕事のパートナーとしては頼りになるなだが彼女のヒステリーにたくさん振り回されたことを思い出す。
「麻衣ちゃんはいつもフラットな感じがする」
「……私はちゃんと病院に行ってます。お薬もしっかり飲んでますから」
「自己管理しっかりしてるわね」
「評価上げてくださいね、今度評価査定するんですよね? 課長」
「もぉ……プライベートのことまでしないわよ」
二人は笑い合う。久しぶりにこんな卑猥な話をして笑うのは久しぶりだと李仁は心がほぐれていく。
タバコを灰皿に押し付け、空いた李仁の右手を麻衣は握る。李仁はハッとして彼女の方を見る。
「冗談はよしなさいよ」
職場では李仁はいつものようなおねえ言葉は使わないがここではもう完全にオフモードになり自然と出てしまう。
だが麻衣の目はトロッとして李仁を見る。そして彼の手を自分の太ももの上に置く。
「冗談ではないです……課長」
「なにやってるの。もう店出ましょう」
李仁は目を合わせずさっと手を戻して会計を済ませる。そしていつも麻衣の家まで李仁は送っていくのだが店を出てすぐ彼は路地裏に連れて行き麻衣にキスをした。
彼女は抱きつき、唇を交える。お互い抱き合い何度もキスをした。李仁は一旦唇を離した。
「店の中であんなことしないでちょうだい、まだまだあなたはお子ちゃまね」
「……女の人好きなんですね」
麻衣は再び李仁にキスをする。彼もさらにキスをし、舌を交わす。
「人として好きなだけよ」
そう微笑みながら言うと李仁は麻衣の下着に手をかけた。
彼女は李仁の目を見て微笑む。
「課長、お薬飲んでますから……」
「馬鹿ね、そう言って騙す女いるから」
と二人目を合わせて笑い合いまたキスをし、路地裏で李仁と麻衣は……。
その裏では李仁の帰りを待つ湊音。ご飯はあとは温めるだけである。過去に浮気を繰り返していた李仁に愛想をつかしていたが流石に今はそんなことをしないと思っていた。
「李仁……お仕事忙しいもんね。僕の代わりに今働いてくれているんだから……」
メールがスマホに来た。湊音は表示を見てスマホを置いた。シバからのメールだった。
「もういい加減にしなきゃね……」
結局李仁はその晩には帰ってこなかった。
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