第9話 キスはあえてしなかった
湊音は気づくとベッド中で寝ていた。雨が上がって大輝が迎えにきてくれて家に行き、ヘッドマッサージを受けたところまでは覚えていた。
「……」
ボーッとする湊音。服は着たまま、来たときのまま。
「変なことしてないよね」
と、なぜかほっとする。
「起きたようだね」
そこに大輝がやってきた。お茶を手にして。彼は微笑んでいる。
「大輝くん、僕は……」
まさか、と湊音は布団から出る。大輝はその仕草に笑う。
「なんかあったと思った?」
湊音の記憶には大輝の部屋で頭皮マッサージを受けたことしか覚えていない。
たわいない話をしながらも、気持ちよく気持ちよく……そこからの記憶がないのだ。
「……ないよ。湊音さんは眠ってしまった」「ごめん、寝ちゃった。って、今何時?」
外を見ると薄暗い。湊音はそれ気づくとさらに慌てる。
「夜7時」
大輝は部屋に飾ってある時計を指差す。湊音は自分の失態にさらに慌てる。
「えええっ!! 帰らなきゃっ」
「大丈夫、大丈夫……焦らないで」
「だって、晩ご飯作らなきゃ! 家事もまだ終わってない」
慌てるどころかパニックになったてしまった湊音を大輝は抑える。
だかその抑えた拍子で湊音の上に大輝が乗っかってしまったのだ。
そして二人は至近距離で見つめ合うかたちになる。
「だ、大輝くん……」
あまりの至近距離に湊音は声を失う。すると大輝は笑う。
「ねぇ、本当に何もなかったと思う? 記憶にないとかいうけどさ……」
「えっ?」
「だってこの部屋の中には二人きりだったのに。頭皮マッサージでね、気持ちいいって言って湊音さんは体が火照ってた……」
湊音は思い出せない。少し目線を逸らすが大輝はまじまじと見てくる。
「身体は正直なんだよ……ほら、今も」
「ああっ……」
湊音は身体をびくっとさせた。
「ほら、ほら……」
「うううう!!!」
大輝に身体を触られ抵抗するが無駄であっだ。自分よりもでかい身体に抑えられて身動きが取れない湊音。
パニックも伴い叫びに近い声を出す……。大輝は笑いながら湊音の首筋にキスをしながら身体を擦り付け触る。彼の体も服の上からだが火照っている。
「こら、大輝。お遊びはそこまでよ」
「えっ?!」
パニックで息が上がった湊音は聞き覚えのある声の方を見た。そこにいたのは李仁だった。
「李仁、どうしてここに?!」
「それはわたしが聞きたいわよ……仕事帰りに大輝からメールで『湊音さんが頭皮マッサージ中に爆睡しちゃったから迎えにきて』て」
「ああああ……」
一気に力が抜ける湊音はふとんをかぶる。上に乗っかっていた大輝はそっと身体を離してベッドの上に座る。
「お弁当買ってきたから帰るわよ、ミナくん」
「は、はぁい……」
「まだ眠い? 泊まってもいいだろうけどもその調子じゃ朝になるまでに大輝に食べられそう」
「ううううっ」
李仁と大輝は笑った。
「エッチなことしてないし、まずもってキスしてないから。安心して、李仁」
何を安心するのかと思うが……。
「大輝くん、ありがとう……」
「また頭皮マッサージおいでね」
「はぁい」
大輝は湊音の耳元でささやく。
「お店だとあれだからまた僕の部屋に来て」
「もおおお」
湊音は李仁のところに行き、抱きつく。
「うちの湊音がお世話になりました。大輝の分もあるから、お弁当。後またお礼させて。ミナくんのマッサージの」
「お弁当ありがとう、それだけで充分……李仁は来週予約してくれてるし」
「ええ、また来るわ」
湊音は小さく大輝に手を振り部屋を出る。
部屋に残った大輝はベッドのメイキングする。
「……」
大輝も二人と同じく同性愛者。数年前に女性と結婚して子供も生まれたが、やはり彼には女性との生活は向かなかった。離婚して一人。美容室経営で数店舗のオーナーだが一人部屋にいると寂しくなる。そして特定の恋人もいない。
「キスすればよかった……」
とベットに残ってるかすかな湊音の香りを嗅いで顔を埋めた。
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