第2話 ためいき、過去のこと

 ゴールデンウィークも過ぎて、慌ただしくなる頃だが、湊音は1人、部屋の中で洗濯物を畳む。好きな映画を見ながら。


 普段から家にいる時は家事をしていた彼だが、今本当であれば高校にて教壇に立っていたはずだった。


 湊音はゴールデンウィークを迎える前に15年近く勤続していた私立高校を退職し、教職も降りた。


 理由は多忙による疲労と精神的ストレスによる自律神経失調症で体を壊し、2020年の半分以上は教壇に立てなかった。

 教壇に立たなかったことだけで無く、顧問を務めていた剣道部でも指導ができなくなり、さらにそれが彼を追い詰めた。


 ついに見かねた李仁が湊音に教職を辞めるよう説得したのだ。


 やめて数日、未だに早起きの癖は治らない。李仁にはまだ寝てていいのにと言われるが湊音はどうしても早く起きてしまう、ならいっそのこと自分が早く起きて朝ごはんを作ろうといつもは李仁が朝の準備を湊音がすることになった。


 料理はもう慣れている。2人結婚してから料理の得意な李仁とともに料理をしてきた湊音は慣れた手つきでご飯を作る。

 朝はごはんと弁当、その残りを昼ご飯として食べ、夕方に少し軽く食べ、21時ごろ帰ってくる李仁を出迎えるために軽めの夜ご飯を用意して待つ。


 その合間合間にもちろん家事。


「専業主夫も大変だなぁ」

 と湊音はため息をつくが同時に思い浮かんだのは前の結婚の時に元妻に対して専業主婦になってほしいと懇願したがビジネスウーマンであった彼女に断られた経緯があった。


「そりゃ美帆子も嫌になるわな」

 とぼやいてもあの頃には戻れないと湊音はまたため息。


 元妻も料理や家事ができる方だった。湊音は仕事もしている彼女に対して全ての家事を押し付けていた。


 李仁と結婚してから家事や料理をバランスよくやっている湊音。

 前の結婚の時もそうすれば良かったのだろうか、とふと思う時があるようだが……。


 しかしその時うまくいっていたら今李仁と共に結婚生活を過ごしていなかったのだろう、と……。



 浴室から洗濯終了のブザーが鳴る。

「昔のことは考えちゃダメだ……」


 空いた時間ができると過去を思い出してしまう、それは彼の癖、いやどの人間もそうだろう。


「さて、今度は風呂掃除して、トイレ掃除して……休んでる暇ないぞーっ!」


 忙しければ余計なことを考えなくて済む、そう思う湊音だった。









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