幕間 ~南部山岳地帯における調査報告書~
「――山の様子がおかしくなったのは一月くらい前からだ。あの頃はやけに獲物が獲れた。時期としても獣が――魔物もだが――活発化する頃合いだから書入れ時だったのは間違いねぇ。だが、それにしても獲れすぎた」
「山の実りも豊富だったからな。たまたま大猟の年だったって見方もあるさ。でもな、ずっと奥に分け入らなきゃあ見ねぇはずの獲物ですら麓で狩れちまいやがった。これは明らかに異常だ。よくねぇ。奴ら、何かが原因で逃げてきやがったのさ」
「真っ先に思い浮かんだのは大型の魔物の発生だ。砂漠からそこをぐるりと囲む山脈一帯は軒並み魔力濃度が高い。だから何年かに一度は魔力に影響を受けて変異したり凶暴化する魔物が出るし、他所から魔力にひかれた強い魔物がやってきたりする。そんな奴らに縄張りを追われた動物たちが麓に逃げてくるのさ。それについては一度、騎士団がハリムの街と山里の周辺を中心に山狩りをして、それらしい魔物を討伐した――でもな」
「そうじゃなかったんだ。しばらくして山から動物がさっぱりいなくなりやがった。アイツらは
「同じようなことが六年前にもあった。爺様たちは、神様が荒ぶってる、って言ってたっけな。神様――そうだな、神様みたいなのがその頃は山にいたんだ。山の調子を整えて、魔物や動物の均衡を図るような、そんなのがよ。ある時、とんでもねぇ雷雨がここら一帯を襲ったことがあった。三日が過ぎても空は真っ暗なまんま、雨の隙間をぬって落雷がひっきりなしに山を揺らして、子供から年寄りまで家ん中で震えてるしかできねぇ。雨の強さで火事にならねえってのがせめてもの救いだったな。四日目に、山ひとつ崩れたんじゃなねえかってくらいデカい地鳴りが起こった。すると雷が止んで雨も弱まった。ワシらは何人かで連れ立って、山の様子を見て回ることにした。…………ああ、いまだに信じられん。山が燃えてやがった。さっきまで滝のような雨が降り続いてたってのに、真っ青な炎が尾根を包んでるんだ。誰もが声も出せずにその光景に見入ってた。そうするうちに、火はあっけなく消えたよ。雨で消えたんじゃねぇ。広範囲に広がってた炎が蝋燭を吹き消したみてえに一瞬で消えたんだ。幻でも見た気分だったよ」
「それからだ。しばらくの間、周辺の山に獣や魔物が溢れやがった。大方、あそこから逃げてきたんだろうよ。それ以来、この山に“神様”はいなくなった――らしい。爺様らが言うにはだがね。実際、山の様子は以前と変わったよ。ま、あんな規模の災害がありゃあ当然だともいえるが。……そうだな。ワシらはそん時と同じようなことが起こってるんじゃないかと思ってる。――場所だと? ワシらが今いる
「うわあぁぁぁ!」
「何だ!?」
「大丈夫か!?」
「よせ、迂闊に動くな!」
「あ、ぎ……ぎゃあああああ! 腕が……腕がぁ!」
「おのれぇ、前に出るぞ! お前ら二人は負傷者を連れてさがれ!!」
「こいつ、デカいのにとんでもなく素早い……がっ!?」
「刃が弾かれる、なんて硬さだ!」
「こいつ、竜種じゃないのか?!」
「竜種だと!? こんな化け物がか?!」
「あああああ、熱い熱い熱い! 何だこりゃあ、鎧が溶ける!!」
「早く脱げ! くそが、どっちみち俺たちじゃどうにもならん、撤退だ!」
「しかし、どうやって!?」
「ひ、け、剣が……た、助け、がああああっ!!」
「化け物が、そいつから離れろぉおおおっ!!」
「負傷者はさがれ! 密集して離れるな!」
「アンタら、今のうちに逃げろ!」
「何だこの煙は!?」
「ここらの猟師に伝わる煙玉だ。あんまり長くは誤魔化せん。早くずらかるぞ!!」
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