魔王とつかの間の休息

「つっっっかれたぁ~」

「お疲れ様でございますわぁ、アル様」


 寝台へ寝転び、アルは身体をぐっと伸ばす。


「ほんっと、よくあんなに騒げるわね」


 アルたちは砂虫との戦闘後、タルカスの隊商に便乗しハリムの街へと到着した。

 タルカスたちたっての希望で酒場で共に祝杯をあげたのだが、夜を徹して飲み明かしそうな勢いを察し、適当な所で切り上げたのだった。


「まったく、あの連中ときたらアル様になんてなれなれしい」


 商人の一団とはいえ、山河を踏破し荒事もこなす男たちだ。皆気さくで愉快な人間ばかりだったが、誰も彼も豪快で、それ故にちょっとばかり雑というか大雑把というか――まあ、ロベリアは彼らのアルに対するそんな態度に終始お冠だった。


「どいつもこいつも、アル様のことを嬢ちゃんだなんて気安く呼んで、あまつさえ触れるなんて。何度手首を切り落としてやろうかと思ったことか」

「こらこら」


 ロベリアには「もめ事禁止」とあらかじめ言い渡していたため見境なく暴言を吐いたり襲いかかるようなことはなかったが、周囲をずっと威嚇して唸り続けるので、いつ暴れ出さないか気が気ではなかったのだ。

 クリムが「なら捕まえてれば?」と言うので試しにアルが膝の上に座らせ後ろから抱くように身体を固定すると、嘘のように大人しくなった。

 男たちが近づくたびに不機嫌な表情になりはするが、どうも周りには小さな妹が大好きな姉を取られまいとしている図にでも映っていたようで、気分を害した者がいなかったのは幸いだった。


 ――むしろ微笑まし気な視線を送られるので、とても居心地が悪いのなんの……。


 岩に熊の顔面を掘りつけたような厳つい男たちがこちらを見るたびに目じりを下げるのは、申し訳ないけれど落ち着かなかった。

 どうしても子供相手には甘くなるものだし、故郷に残している妻子や兄弟姉妹と重ねたのかもしれない。

 何人かアルとロベリアを眺めて涙を流しながら「てぇてぇ、てぇてぇ……」と意味不明な呪文を呟いて店の隅に引きずられていったのがいたが、あれもその類だろう。きっと。


 アルとしては魔王城からこっち出会った人物のほとんどが――本質はどうあれ――丁寧な物腰だったため、こうした縦にも横にも砕けた扱いや雰囲気はとても新鮮だった。

 とはいえさすがに体力の限界で、ロベリアの機嫌もいよいよ思わしくなかったので、食事を早々に終えて宿に退散したのである。


「クリムは大丈夫かな? 置いてきちゃったけど」

「本人も問題ないと言ってたので心配いらないのではぁ? あの商人も気にかけていたから、悪いようにはならないと思いますわよぉ」


 タルカスはどうやらクリムが気に入ったらしい。

 隣に座ってあれやこれやと話をしていた。無表情で口数の少ないクリムを相手にすんなりと意思の疎通ができていたのは、さすが海千山千の商人である。


(そういえば、偶然エーファの携帯していたクリム特製の干し肉を見て「質がとてもいい」って褒めてたなぁ。言い値で仕入れるからウチに流してくれって言い出して、クリムも「やること全部終わって家に帰ったらいいよ」なんて)


 ――あれは、どっちだったんだろうね。


 頼まれたから“やる”と言ったのか、クリム本人が“やってもいい”と思えたのか。

 どちらにせよ、彼は出会った当初に比べてほんの少しだけれど印象というか雰囲気というか――が、違う気がする。気のせいかもしれないけれど。


「ところでぇ、アル様?」

「うん? どうしたの?」


 ロベリアの声に意識が引き戻される。


「そのぅ………………えぇとぅ……あの男ムートゥと何を話していたんですの?」


 何か言おうとして途中で話題を変えたような感じがしたけど、まあ、いいか。


「別に。発破かけてくれてありがとうって、お礼言われただけ」


 宿はタルカスたちが費用持ちで手配してくれたもので、ムートゥが「女子供の夜歩きは危ねぇからな」とわざわざ送ってくれたのだ。

 入り口で呼び止められ、エーファたちの前では言い出しづらそうにしていたので、二人に先に中へ入ってもらうと、ムートゥはホッと表情を緩めてアルに頭を下げたのである。



   * * *



「ありがとうよ」

「ん、何のこと?」


 突然の礼にアルは首を傾げる。

 見ず知らずの女子供相手に食事から宿代まで出してもらって、感謝しているのはむしろこちらの方なのだが。


「砂虫ん時の件だよ。アンタらがいなきゃ、儂らはああして騒ぐこともできんかった」

「――ああ」


 アルはぎこちなく頷く。


(なぁるほどぉ? ムートゥたちあちらからしたら、絶体絶命の時に私たちが助けたってなってるんだ。どうりでやけに気前がいいと思ったら……)


 どうやらあのままでは荷物をすべて破棄したあげく、下手をすれば全滅、そうでなくとも人員の大多数を失っていたかもしれないらしい。

 だからこんなに感謝されているようだけれど……。


(言えない……実は私たちが砂虫を呼んだあげく怒らせてたなんて……)


 不可抗力ではある。が、「ならば払った金を返せ」と言われても困るのである。

 なにせ金がない。

 アルはもとより無一文だし、クリムも家と共に吹き飛んでしまっている。エーファとロベリアがいくらか所持しているが、四人分ともなると心もとない。

 だから全力で誤魔化す。


「いいいいいいわよ、別に。お礼なんて。食事をおごってもらって、宿も手配してもらってるんだしさ。お互いさまよ、お互いさま。困ったときは――てね? ねっ!?」


 自分でも予想以上の挙動不審ぶりに心の中で悲鳴をあげる。

 私、腹芸下手すぎない?


 しかしムートゥは、それを照れていると判断したらしい。厳つい髭面を緩めて苦笑すると「それだけじゃねぇ。儂ぁ、アンタのおかげで踏ん切りがついたんだ」などと言い出した。


「はい?」


 まてまてまてまて。さすがに覚えがないぞ。

 アルの困惑をよそに、ムートゥは言葉を続ける。


「知っての通り、儂は元冒険者だ。二十年以上も続けて、世間一般じゃ最高位だと思われてる金等級にまでなった」

「“最も白に近い金色”?」


 事実上の冒険者最強の評価であるその異名をしかし、男は苦い笑みで受け止める。


にとっちゃそれは、蔑称だったよ。金色最強、だけど“白”じゃねぇ。てな」


 冒険者組合は、所属している冒険者に対し五段階の等級を定めている。新米の銅から始まり、鉄・銀・金・白金の順に実力や知識・素行等をもとに繰り上がっていくことになる。冒険者の身の丈に合わない依頼受注による不要な損耗を避けるための措置であり、これが定められたことにより組合発足当初の死傷率を大幅に改善している。

 白金は最上位に置かれてはいるが、規格外の冒険者――それこそ勇者のような英雄級――を扱うための位らしく、世間には金が一番上だと公表している。

 組合員ですら“白金”持ちを見た者はほとんどおらず、登録している冒険者からも“幻の等級”と呼ばれ血気と野心に燃える彼らの最終目標となっていた。


 当時、自尊心も強く努力型の人間だったムートゥも同様で、“白金”を目指し鍛錬に鍛錬を重ね冒険者組合に舞い込む依頼をこなし続けた。その甲斐もあって時間こそかかりはしたが、彼は金等級へと昇り詰める。だが、そこで打ち止め。真の最上位である白金へと上がることはなかった。

 納得のいかない彼は組合に不服を申し立て、ついに白金等級の魔物討伐への同行を許可される。

 参加ではなく同行。それはムートゥが戦力として換算されていない証だったが、そんなものは覆してやればいいと、意気込んで討伐へ向かったのだ。

 そして――彼が今まで積み上げた自負や自信、あらゆるすべてが、崩れ去った。

 “白金”との同行を主張するムートゥを遠慮がちに制した組合員の表情を、依頼から戻って来た彼に向けられた気づかわしげな視線を、いまだに忘れることができない。

 その後、ムートゥは冒険者から足を洗い、現在に至る。


「自分じゃ吹っ切った気でいたんだがな。どうにも、ずっと尾を引いてたらしい」


 煮え切らない何かが胸の奥にあった。

 逃げ出した。それなのに未練たらしく隊商の用心棒なんて職に就いた。タルカスと出会い、組織の二番手なんて当時じゃ考えられない出世をしたが、ムートゥはずっと自らに疑念を抱えていた。

 本当にいいのか。これは妥協の産物じゃないのか。腰掛け感覚でたまたま座った椅子が思いのほか具合が良くてそのままだらだらと居残っているだけで、友人タルカスから信頼されるほど自分は上等なものではないのではないか。

 諦めて逃げ出した自分を許せない。その一点から時間をかけてこじれてしまった鬱屈が、ずっと燻っていたのだ。

 そしてそれは砂虫の襲撃で決定的な迷いきずとなって表れた。


 砂虫一体一体はムートゥの脅威ではない。なのに逃げ出すのか?

 長年の経験は半ば自動的に状況を読み取り判断を下す。

 自分だけなら問題はない。しかし、一体相手にする間に他が襲われる。すべてを倒しきる頃には誰も居なくなっている。

 だが、それは撤退しても同じ事だ。荷は確実に失う。誰かはきっと犠牲になる。

 ならば――。

 答えの出せない葛藤は、盲目的な自己犠牲へと彼を走らせようとしていた。


 そんな中、アルが現れたのだ。


「いやあ、アレはびっくりしたぜ」


 ムートゥは呵々と笑う。


「大の男連中が逃げ出そうとしてんのに、いきなり自分の半分も生きてねぇ小娘がやって来て、手伝えってんだもんな」

「いやぁ、ハハ……」


 アルはそっと視線を泳がせる。

 説得するにも砂虫があと少しでやって来るから時間がないわ、周囲の男どもは全員顔が怖いしピリピリしてるしで、正直吐きそうだったのだ。


「睨みつけても平然としてやがるしよ」


(緊張が振り切れて、表情筋死んでたんすよ。手の平とか汗でべっとべとでした)


「しかも、儂が元金等級って知った上で、ウジウジしてんなってケツを蹴るとはよ。他の奴が言ったんだったら、ぶん殴ってたところだぜ」


(マジかー。そのこん棒みたいな腕で殴られたら、私ぜったい死んでる……)


 ロベリアが「男ってのは意地っ張りで自分の意見をなかなか変えませんが、カッコ悪いところを見られるのをとても嫌うものですの。だから、ちょっと焚き付けてやればすぐ乗ってくるはずですわぁ」なんて言うから、彼女から聞いたムートゥの情報とウルドが言いそうなことを混ぜてみたのだが、どうやらそれは逆鱗の上で飛び跳ねる行為だったらしい。

 どうして無事だった、私。


「どうしてだろうな」


 それは私が聞きたい。


「嬢ちゃんに言われたとき、妙な感覚がしたんだよな。“白金”以上の、それこそ勇者とか魔王とかの最強の存在に“お前は十分に強いって”認められたみてぇな、あるいは、小さな子供に“そんなに力があるのにどうして自分の大切なものを守らないのか”って問い詰められたみてぇな、な」


 まあ、一応、魔王ですし?

 ちょっと前に「アル、たぶん十歳以下の子供に腕力と体力で負けてます」ってエーファに言われたばっかりだし?

 もしかしたらそこら辺が原因かもねっ!(やけくそ)


「不思議なんだけどよ。それで自分の中でかっちり何かがはまったんだわ。今度は逃げずに済んだしな」


 ――だから、嬢ちゃんらには感謝しかねぇんだ。ありがとうな。聖女さま。


 最後にそう冗談めかして、ムートゥは去っていった。



   * * *



 なんだか、とんでもない誤解をされちゃってた気がする。

 アルとしては商人たちを説得はしたが、内容はロベリアの入れ知恵でウルドの物真似だから自分の手柄なんて実感はない。砂虫を倒したのも、彼女以外の全員だ。むしろ突っ立ってるうちに周りが勝手に虫を平らげていくものだから「私、いらなかったんじゃない?」とすら思っていた。

 完全に実力以上の評価に「うあぁぁ~……」と枕に顔を埋めて悶える。


「アル様?」


 挙動不審なアルに、ロベリアが声をかけた。


「――ねえ、聖女って何のこと?」


 不意の問いかけにロベリアは小首を傾げたが「ああ、商人たちが言ってたことですのね」と聖女についての説明をしてくれた。

 救世の聖女――絵画や絵物語にもなっているそれは、二百年前に生まれた先先代の勇者の双子の姉である。勇者の力こそ有してはいなかったが、弟と同じく黒髪黒眼。儚く可憐な容姿でありながらその意志は鋼の如く。魔王率いる軍勢との決戦のために集った人々の中心となり、精神的な支柱であり続けた。戦後、壊滅状態となった周辺諸国をまとめ上げ再統合し、現在の統一王国や光翼騎士団を興した超・超・重要人物らしい。


「ふーん。魔王城うちにはなかったな、それ」


 魔王城に書庫と呼ばれるものはなかったが、アルの教育のためにと様々な書物をウルドがどこからともなく仕入れてきていた。長じてアルが物語を好むようになると、それらを重点的に集めてきてくれたものだが、全く記憶にない。

 どうやら文字の読めない層にまで伝わっている話のようだし、手に入れられないはずがないのだけれど――と、そこまで考えて、アルはようやく自分がその“聖女様”になぞらえて呼ばれていたのだと気がついた。


「何つーもんに例えてくれてるんだ、あのおじさん!」

「そうですわよねぇ。アル様をたかだか人間の偉人程度と並べるなんて」


 違う、そういうことじゃない。

 アルは声に出さずに突っ込みを入れる。

 そういえばロベリアこの子もやたらとアルへの評価が高いのだ。

 ハスタの館で人質にしたアルに対して非力だ何だと言ったことを忘れてるんじゃないだろうか。


「もう、そのことは言わないでくださいませ」

「なぜ照れる」


 もしかしてコイツ、アルわたしに何か意図があって人質になったとか考えてるんじゃないでしょうね?

 むしろあれはロベリアをハメるために利用されたようなもので、アルも被害者なのだ。


「わかっていますわぁ、アル様。確かにいまは激戦続きで魔力もほとんど消費されているようですしぃ……ええと……肉体的な強度も、そのぅ……魔族の中では少々弱い方……かも知れませんがぁ……。でもでもっ、それを補う臨機応変な対応とお知恵。そしていざとなれば魔喰を行使して最前線に立たれることも厭わない、立派なお方だということは、しっかり理解しておりますので!」


 一応、弱いというところは理解してくれているらしい。が、その後がいただけない。

 そもそも魔力の吸収マグライにしたって――ウルドとエーファが言っていたが――喰らった魔力を貯めこめずに放出してしまうのは、魔力に身体が慣れていないせいで拒絶反応を起こしているからなのだとか。

 云わば「ご飯を食べたがお腹が痛くなって吐き出している」状態らしい。

 その例えはどうなんだと思わなくはないが、とにかくアルは自分の能力すらまともに扱えていないのだ。戦力として換算されても困る。

 それにずっとひきこもって暮らしていたから、荒事にも対人交渉にも無縁で、人並みのことを満足にできるかすら怪しい。


 過大な評価は、身の丈に合わない役割を押しつけられて大惨事となる不幸な連鎖にしか繋がらない。

 だからあまり期待しないでほしい。


(あー……なんか、ほんっっっっっっっとに、どっと疲れちゃった)


 疲れてはいたのだけれど、また別種の疲労がドスンときた感じだ。

 ……なんだかもうどうでもよくなってきたな。


 ロベリアの誤解は、しばらく一緒に過ごしていれば自然に訂正されるだろう。たぶん。

 “聖女”呼びにしたって、勇者クリムがいるから引き合いに出したに違いない。砂漠での戦闘でも、圧倒的にクリムが活躍して目立ってたじゃないか。うん、だからそこまで気にしなくても大丈夫。どうせ次に会う機会があるとも限らないんだし?

 うんうん、きっとそうだ。だから余計なことを考えるのは止めてとっとと寝てしまおう。


「あのぅ、アル様?」

「なに?」

「ええとぉ……そのぅ……」


 もじもじもじもじ。

 何だろう、急に。トイレだろうか?

 そういえばさっき何か言いかけてたような?


「あの……ご、ごご」

「ごご?」


 こんこん、こんこん。


「ごごごごごご、ごほおびを……その……」


 どんどんどんどん。


「ああ、もうっ。さっきからうるさいですわね!」


 扉を叩く音に邪魔されロベリアは怒声を上げる。

 外にいたのはエーファだった。


「二人部屋なんだけど!?」

「そうだけど?」

「そんなの見ればわかることですわぁ」


 エーファの第一声に、アルは首を傾げる。

 タルカスが手配してくれた部屋は二人用の部屋が二つだ。


「あなた、好意で手配された宿に文句を言うのはよろしくないですわよぉ?」

「ち、違うよ!? そんなことしないってば! そ、そうじゃなくて、わたし、クリムくんと同じ部屋なんだけど……」


 それがどうしたというのだろう?


「だ、だって、男の人と同室って……」

「ハスタと旅した時に野宿したり同じ部屋に泊まることはあったでしょう?」

「あ、あ、あったけどぉ。お、お師匠は、お師匠様だから、違うっていうか……」


 どうにも煮え切らない。別にクリムが嫌いという訳でもないようだし。


「よくわかんない」

「そうですわねぇ」


 アルに同意したロベリアへ、エーファは戸惑った視線を向ける。


「え、え? ち、ちょっと待って。アルはともかく、ロベリアもわかんないの?」

「?」

「だ、だって、あんなに露出の高い格好に変身してるから、てっきり……」

「何がてっきりかわからないけど、あの格好してれば男どもが食事をおごってくれたり、ペラペラ情報をしゃべってくれるからやってただけよぉ?」


 しばし唖然としていたエーファだったが、膝を曲げてロベリアと視線の高さを合わせると――


「もうあんな格好しなくていいからね。むしろしちゃダメ。ひ、必要なら情報収集はわたしの方で頑張るから」

「な、なんなのぉ?」


 急に優しく声をかけられて戸惑うロベリア。

 やっぱり何のことを言ってるのかよくわからない。


「んー、ちょっと脱線した? とりあえず、クリムと同じ部屋だと困るんなら、私がそっち行こうか?」

「そ、それはちょっと……」

「ダメですわぁ」

「なんでだよ」


 二人同時に止められた。


「じゃあ、こっちの部屋に来る? 寝台は二つだけど、ロベリアちっちゃいし、私と二人で一つ使えば大丈夫だろうから――」


「ア ル 様 と 同 じ 布 団 で ! ? ! ?」


 とても音階がでたらめな叫びをロベリアがあげた。


「あ、嫌だった? それならロベリアとエーファで――」

「「ゼッタイ嫌」」

「即答かよ」


 あんたら、本当は仲いいんじゃないか?


「でも私とエーファじゃ狭すぎるし」

「しししししし、しょうがありませんわぁ。アタシがアル様とご一緒いたしますの」

「え、でも嫌じゃ――」

「ぜひお願いいたしますっ」

「あ、うん。そういえば、ロベリア、さっきなんか言いかけてたけど――」

「それはもうどうでもいいんですの。今となっては些末事ですわぁ」

「そ、そう? エーファも、それならいい?」

「は、はい。それなら」

「じゃあ、決まりね」

「はぁい、アル様っ」


 そんなこんなで、ハリムの街にて初日の夜は更けていった。

 アルが本で読んだ『女子会』なるものの話題を持ち出したことで少々波乱が起きたが、それは別のお話。

 おおむね、仲間と共に平穏な一夜を過ごしたのだった。

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