魔喰 ~マグライ~
――何が起こった?
アタシたちの勝利だったはずだ。
ちまちまとウザったい術師は、蜘蛛の奴が縛り上げて動きを止めた。
散々しぶとかった勇者も魔猪に踏み潰されて終わり。
魔物もどきや他の魔族と手を組まなければならなかったのは業腹だが、アタシは晴れて“勇者殺し”としてこれ以上ない手柄をあげたはずだ。
なのに何故?
どうして魔猪が倒れている?
勇者を蹂躙するはずだった両前脚は消失し、今にも絶命しそうな芋虫のように弱々しい息を吐き出すばかり。
そして、あの小娘。
術師の家でアタシが人質にしたひ弱なニンゲン。
いつの間に現れた?
そもそも、アレは本当に失神しそうなほど震えていた少女なのか?
あの冷たい瞳と、押し潰されそうなまでの威圧感は何だ。
少女の華奢な手のひらが魔猪に触れる。
たったそれだけで、家ほどもあった巨大な姿は消滅した。
「ギ、マさか、マグ……」
蜘蛛は言葉を終えることすら許されなかった。
少女の手から漆黒の魔力光が放たれ、蜘蛛の異形を深淵の闇に飲み込んだ。
――コイツだ。
先日の不可解な魔力。
通常の魔族とは異なった魔力の放出はこの少女によるものだ。
しかも、しかも、ああ、なんてこと。
アタシの予想が正しいなら、コイツは。
いや、この御方は――
ぎろりと、灼熱の輝きを放つ瞳がアタシに向けられる。
燃えるほどの紅さなのに、その眼差しは凍えるようだ。
「ぐ……ぇ……」
気がつけば、首を絞め挙げられていた。
いつの間に近づかれ、触れられたのかすらわからなかった。
術師の館ではアタシの腕を振りほどくことすらできなかったはずの細腕が、たった一本で身体を持ち上げ、喉に指を食い込ませてくる。
アタシは身動きすらできない。
魔力が急速に抜けていく。
もう指先が微かに動くだけだ。
「……ゃ、だ…………ぃ、ゃ…………」
いやだ、いやだ、いやだ。
身体が縮んでいく。
アタシを構成する魔力が喰われていく。
「た……す……ぇ……」
だめだ、だめだ、だめだ、
こんなところで終れない、終わりたくない、
アタシ、まだ何もしてない、
まだ、なにも、できてない、
――半端者には、似合いの末路よな――
ちがうの、ちがうの、
こんなはずじゃ、なかったの、
こんなつもりじゃ、なかったの、
ぼろぼろと、とめどなく頬を滴が流れていく。
アタシは、ただ、
みとめてもらいたかったの、
はんぱものだって、やれるって、
あなたに、みとめて、もらいたかった、だけなの、
もう声も出せない。
そんなめで、みないで、ください、
ごめんなさい、ごめんなさい、
ゆるしてください、
まおうさま
魔力のほとんどを失い、気が遠のいていく。
がくん、と身体が重力に引っ張られる感覚。
何が起こったのか、閉じかけた目蓋を無理やりに開く。
意識が途切れる直前、アタシが見たのは、
片腕を切断された
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