魔王と精霊術師⑤

「は?」


 ハスタの指摘に対し、声をあげたのは当のロベリアではなく、アルだった。

 何言ってんの? 騎士団の証も持ってたんでしょ? だから家に入れたんでしょ? 今になってボケた?


 老人以外、全員が大なり小なり驚きを表している。

 魔族というなら、ゼグの時のようにクリムだって気づいたはずだ。その彼が反応していないのだから――

 そこでアルの思考は中断させられた。

 とんでもない速度と力で首根っこを掴まれ、引っ張られたのだ。


「…………ふん、さすがは人間最強の術師と、言っておこうかしら?」


 視界が急速に動いたことで目を回していると、耳元でロベリアの艶やかな声がした。口調を抑えてはいるが、動揺と悔しさがにじみ出ている。


(いや、本当に魔族かよ!)


 言い訳すらしないとはいさぎよいというか、諦めが早いというか。どちらにしろ見事なまでの見切りの早さである。


(だからって、私を、人質に、しない、で!)


 文句を言おうにも、首を腕と身体で固定されて声が出せない。もがいてみるが岩にでも挟まれているようにびくともしない。

 そして抱いていたはずのルーは、いつの間にかいつものごとく抜け出していた。


(あんの薄情者ぉ!)


 突如、顎にかかっていた腕がわずかに持ち上がり、強制的に首が伸び顔が仰向く。

 どうやら反射的に飛びかかろうとしたらしいクリムに、ロベリアが首を締めあげるそぶりを示して牽制したようだ。


(ああああ、とれるとれるとれる首がスポンっていく! もっと加減しろぉ、私はか弱いんだぞ!?)


「油断のならない小僧だね。この娘に怪我させたくないならもっとさがりな。たかが人間の首なんて小枝と変わらな…………え、ちょっと、まだ折れてないわよね? 生きてる? この子、顔真っ青なんだけど。枝どころか草摘まむくらいしか力入れてないわよ? ねえ、ビックリするくらい細いうえに力がないんだけど、大丈夫? まだ仔犬の方が手ごたえあるわよ、いやホントに」


 人質アルが一気に虫の息になったため、ロベリアの腕から急速に力が抜ける。(だからといって到底振りほどけるものではないが)


「クリム、さがりなさい」


 いつにないハスタの真剣な口調に、クリムが渋々彼らのもとへと移動する。


「――さて、そろそろ僕の質問に答えてもらえますか。どうして魔族が訪ねてきたのか?」

「どうしてぇ……?」


 ロベリアの口端が吊り上がる。よくぞ聞いてくれたとばかりに。


「くふふふ、こんな窮屈な格好だけれど、まずはご挨拶を。ごきげんよう、人間ども。アタシの名はロベリア。の招集に応じ参じた魔族である。ついては術師殿、その首、魔王様への手土産としてもらい受けるわぁ」


 しーん。


「………………ちょっと、何よ、この空気」


――そりゃあ、ねえ?

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