余計に複雑な任務

 秋が始まろうとする大きな風が大地を震わすようにビューと吹く、青空の下。


 諸君らが集まってもらったのはほかでもない。

 これから複雑かつ、超重要な任務の遂行に従事してもらうためだ。


 仕事の目的は最後まで聞けば分かる。内容は今から言う。

 始めに言っておくが、これには様々な手順があり一つも飛ばすことはできないし、どれも重要であるから心して聞く様に。


 まずは、手前の研究所に併設される巨大な箱型施設に注目してほしい。

 こいつの中には一つの大きな船が入っている。この船を秋の風を頼りに大海へ出せ。


 なに心配は無用。船の甲板についている風速計に十分注意して、出航の時を見ればよい。大きな風が吹けば一発で海洋へ出れるし、失敗したら成功するまで試せばよい。最初のステップはそこまで難しいものではない。


 それがすんだら、大海のど真ん中に船を持っていき、船の中央に設置されているパラボラアンテナを起動させるんだ。そいつは、はるか宇宙かなたの衛星と通信を助けてくれる。そしたら、その衛星を利用して太平洋を飛ぶ海鳥の航路を予測計算するんだ。


 ここら辺の説明は端折るが、海鳥の航路と経済動向はカオス理論的に相関関係がある。もう、言いたいことは分かるな。海鳥の航路情報を東京の経済研究所に送るんだ。


 そしたら東京の経済研究所はその情報を基に経済動向を予測する。予測されたデータは経済新聞に載る。経済新聞はニューヨークで売られる。ニューヨークで、世界中の投機家がそれを買って読む。投機家はそれを基に、次なる投資先を決める。


 そこでだ。君たちにはその様子を衛星から逐一映像を取り、観察してもらう。観察して得られたデータは、M387星雲の端衛星に住むマドラ星人に送れ。マドラ星人はそれを光学変換して、ドルドン星人に送るはずだ。ドルドン星には植物が無いので、それは訳にたたないと思われ、続いてドルドンの地下組織が復活するだろう。何を言っているのか分からないと思うが気にするな。ここまではマニュアル通りだ。


 ドルドン星の地下組織は力をつけて、反政府運動を起こすだろう。今度はその映像をベルダン星人に送れ。ベルダン星人がその観察情報をどう使うかは、我々の知ったところではないが、彼らは次にこちらに特殊電波を通じて何かを送ってくるはずだ。


 今度はそいつを...え?そいつを受信するだと?バカ言うな。その特殊電波は光エネルギーが強すぎて、とても受け取れる様なものではない。どのくらい強いかと言えば、地球の海水を0.03%蒸発させるくらいだ。

 

 急激に蒸発した水は大気をさまよい、大気に温度のムラができる。

 そしたら研究所に戻り、我々が日本中に設置している風力発電所の様子を確認しろ。きっと、温度ムラによってできた気圧差から大風が各地で起こり、大量の電気が発電されているはずだ。


 今度はそれを日本政府にかけあって、高値で売るんだ。

 普段から政治家に裏から手を回してあるからそんなに難しい話ではないはずだ。売れたら、そのお金で桶を大量に購入するんだ。これで桶屋が儲かる。


 君らの任務は以上だ。


『余計に複雑な任務』完

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