第十界 火事? 真空にすりゃ問題はナシ!
「だから、お前は何をやってるんだよお……って、うわあああ!?火!?熱っ、熱うう!?」
僕がそれを唱え、術式をイメージして力を込めた途端、僕の周り半径二メートルに黒炎の円が展開される。そしてその炎は守屋の服の足元から徐々に上に広がっていき、彼の体を蝕む。
ふう。やっぱり予想通り、一発唱えただけで体の中の魔力はすべてなくなっちゃったか。
いつもよりさらに火の温度を抑える、っていう調節もしたからか、魔力をよりたくさん使った感じがした。
中級業火魔法[黒炎領域]。この魔法は、僕が戦場で最も多く使用してきた使い勝手のいい範囲魔法だ。消えにくくくかなり低温という性質をもつ黒炎は、その範囲に入った者をゆっくり焼いていく、ねっとりとした炎である。
しかしこの魔法、動きを止める効果は素晴らしいものだが低温なことからもいまいち決定力はない。
業火魔法にしてはこれは少し特殊なことだが、特に相手の命を奪いたい場合はこれで足止めからの[火拳]とかで十分だ。
あー……、でも、この界の人にとってはかなりのダメージになるかもしれない。使い物にならんくなる前に、早いとこ交渉しないと。
「おら、守屋さん! このまま殺されたくなけりゃ、もうおとなしくして協力して逃げるぞ! 冷静に考えろよ、あんただって一人じゃ逃げられねえだろ! この提案はどっちにとっても好都合なWINWINの契約なんだよ!!」
だってデブは役にたたんだろうしね、どっちにとっても。
「う、うわああ…!! 熱い、熱いいい!!」
おいおい、なんか答えろよ強情だなあ。そんな根性があんなら泥棒なんてしないでもっとほかの道もあっただろうに。
イヤ、これただ苦しくてしゃべれないだけだなうん。
ごめんごめん、やりすぎた。もう火を消してあげよう。
「[気流操作]」
うん、これで酸素を取り払ってすぐに火は消えるはず……。
あれ?
「[気流操作]」
あれ?なんだ消えないぞ?
「熱い、熱いいい!!」
「[気流操作]! [気流操作]!!」
あ!! そうだ、操作系はかなり魔力を食うんだった!!
やばいやばい。はやくこの火を消さないと、こいつも死んじまうし家に燃え移っちまう可能性がある。
というか燃えてる!! まずい燃えてる!! 床から、壁の方に火が進んでる!!
僕は馬鹿か!?ついさっき、家の中で火は使えないって言ったばっかじゃねえか。
まあ助かるためには仕方なかったのだが……。
そんなことより、早く消さないと消さないと!!
どうしよう、何か手はないか……、お、このカーペットをかぶせれば……。
隣の部屋に敷いてあった一メートル四方くらいのカーペットを使って火を消そうと、今まさに燃えている守屋にばはばはとかぶせたり引っ張ったりを繰り返す。
しかし、一向に消える気配はない。黒炎は低温だから苦しみは少ないだろうが、このままなにもしていなければ、帯魔加工もしていない服装のこいつでは、数分も意識は持つまい。
そして、この火を消すためには[気流操作]を使うしかない。
そうだ!! さらに魔力を供給すればいいんだ!! なぜすぐに気づかなかったんだ僕は。
魔力源が二階にあることに気が付いた僕は、すぐに階段への扉に引き返す。
しかしその扉の真ん前でもだえてる人間がひとり。
「じゃまだ、どけ!」
「いかせない、逃がさないいい……」
守屋は、僕の足首を弱い力でつかんできやがった。
ちげーよ、お前を助けるためにそっちに向かってんだよ!!
「いいからどけ!」
力いっぱい守屋を振り払うと、キッチンの方へ苦しみながら飛んでいき、その黒炎はさらに燃え広がった。
ああ、畜生! これはもう絶対に警官にばれる!!
隠れるのはもう失敗でいいから、とりあえず守屋を回復させて一緒に逃げる。たとえ使えなくともおとりくらいにはなるだろう。
僕は怒涛の勢いで階段を駆け上り、先ほどの部屋へと向かう。
「うっ……! クソが……」
いてえ……!! さっき撃たれたふくらはぎの痛みは相変わらずだが、あいにく僕は回復魔法は使えないしそんな些細なことを気にしている暇などない。
部屋に入ると二つの死体を発見。
「な、なんだてめえ、守屋はどうした! あとお前、もしかして火を……」
もとい、一つの死体と一つの死にぞこない。
僕は迷わず、デブに襲い掛かる。
飛び込んだ僕に、数分ぶりの熱い抱擁が襲う。
当然、僕の今の力では捕まる。しかし僕の目的はこいつの肉を、あわよくば心臓を食って魔力に変えること。捕まるのはむしろこっちにとっていいことだ!
先ほど嚙みついた傷が残る腕に噛みつく。
「いてえ……、けど、放さないぜ。さっきは油断してただけで、そんな攻撃俺には効かないんだよ!!」
「中級火魔法[身体発火]、悪いけどかまってる暇はないんだ」
「あちちち! な、なんだお前!?」
もう魔力がなくなっちまった。なんて貧弱な魔力の持ち主なんだ。
仕方ないから何度も食べる。
かじる。焼く。かじる。そして焼く。
それを繰り返していたら、だんだんデブの抵抗は弱弱しくなっていき、しまいにはなくなった。
そして、そろそろ死んだであろうときに、心臓の部分を炎で抉り出す。
そして食う。
腕を食った時よりさらに、体を満たす魔力。この間、わずか一分である。
十分気流操作が使える魔力を手に入れたことを確認した僕は、足をしごいて部屋から出、階段を駆け降りる。
一階は、もうすでに火の海だった。煙も出ていて、外の警官にばれるのももはや時間の問題だ。
「おい、大丈夫か!?[気流操作]!! 真空になれ!!」
大規模な[気流操作]で、部屋の空気をすべて外にやる。
燃え広がる黒い火は、燃えるために必要な酸素がなくなったことで徐々にその勢いを失い、ゆっくりと消えていった。
それにしても、こいつ本当に大丈夫か?
気を失ってたらもう今回は囮決定だ。
こんなに頑張って助けたのは、守屋という男の強力な協力を期待してのことだからな。
「あち……いな、なにしたんだよ、お前……。」
そんな心配も幸い杞憂に終わったようで、守屋はすぐに起き上がって臨戦態勢をとっている。
というか。
「ピンピンしてるーー!!」
そう、思わず声が出るほどピンピンしていたのだ。
判決、異界流し。 ポク塚 @pokudsuka
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