第八界 これが初めて、の友だちということで

 二人はなにやら話しており、僕のことなど全く気にしていない様子だ。

 それは当然だ、なんたって僕が死んだと思ってんだからな。


 だから今は死んだふりをしてる。


 空き巣ってことはすぐにこの家を出ていくだろうし、このまま僕をほっといてたらそのままどっか行ってくれる可能性が高いからな。

 早く帰ってくれよー。僕の息があることに気づかないままさー。


 いや、ちょっとまてよ。

 このまま二人帰っちゃったら、この血まみれデブと二人っきりじゃん、僕! うげ、それはちょっと始末に困るわ。


 だってここだけの話、こいつも生きてんだよなー。分厚い脂肪に守られて。

 気づいてくれよーお仲間さんたちー。こいつ連れて帰ってくれよー。


 そんな心の叫びもむなしく、お仲間さんたち、いそいそと荷物をまとめ始めやがった。


 こいつらが連れて帰んないんなら、このデブはどうしてくれようか。食おうにもなんか脂っぽくておいしくなさそうだ……。

 それに調理するにしても、ここ家だから、火出したらマズいしさあ。

 

 つーか、二人ともなんか窓覗き込んでんだけど。

 外なんか見てもいいことないよ?

 行くなら早く行ってくれないかなあ……。

 死んだふり、そろそろ疲れてきたのよ。


 「お、おい! なんで外にこんなに警官がいるんだ!?これじゃ逃げられねえ!」


 「俺たちがここにいるってばれたんだよ、きっと……。ああ、おしまいだあ!」


 あ、それ僕のせいだ……。

 せっかくこの人たちが帰ってくれるとこだったのに。

 これが自業自得というやつだな、うん。


 「バカ、なわきゃねーだろ! だって俺らが空き巣なんてしょーもないことやってんのは、組にも秘密なんだ…! 」


 「どっちにしても、どうすんだよお! 俺たちはいつまでここにいればいいんだ!?二つの死体と同じ屋根の下になんて、長時間いたらおかしくなっちゃうよ!!」


 僕だって、ずっとこのままうずくまって微動だにしないなんて、おかしくなっちまうよ!


 というか、僕が制服マンって呼んでたやつらは警官っていうんだな。んで、空き巣どもが恐れてるってこた、警察っつーのは正義の味方なんだな。


 ははっ、「正義の味方」って。

 「正義の味方」とか、もう二界では死語もいいとこだよな。


 この界では、戦争とか起こってないのかな。

 起こってたら面白いんだけど。


 「おい、とりあえずこいつらをそこの押し入れにでも突っ込んどけよ」


 え?

 おっと、これはちょいピンチ。流石に、あったかい僕の体に触れられたら生きてることがばれちゃうよ。


 「え、俺がやんの!?いやだ、いやだよ! 撃ったんだから血がたくさん出てるに決まってんじゃんか!」

 

 「おいてめえ、守屋! 一年も先輩のこの俺に対して拒否なんてしていいと思ってんのか!」


 「一年間なんにも結果出せずに空き巣なんてくだらないことしてるあんたが、そんなにいばんなよ!」


 「うるせえ! いいからお前は早く死体を押し込め!!」


 なーんて、こいつらがなにやら口論してる間に、僕はもう反撃の準備を整えちゃったぞい。


 えーと……、これ、多分ここのスイッチ押せばいいんだよな…。他にそれっぽいのもないし、いちかばちか撃てるかやってみることにする。

 もしそれで撃てなくても、これは素晴らしい脅しの道具として活用できるしな。


 それにしても、さっきから「組」とか「先輩」とか、こいつら、もしかしてなんかの犯罪グループにでも入ってんのかな?


 まあ、いい。とりあえず茄子を試してみる。


 「さっきだって俺が助けてあげたのに、感謝もろくにしないそういうところがやなんだよ…へあっ!?う、うわああああ!! え!?なに??なに??何が、何が起こったんだよおお!?」


 「うわあ!?」


 なんか発射されたし!! びっくりしたあ! 思わず声まで出ちゃったよまったく!


 発射口らしきところからは、しゅるしゅると細い煙が湧き出ている。


 や、やっぱりここのスイッチで撃てんだ……。どんな原理なんだろ、不思議で仕方ない。


 というか冷静に考えてみると、犯罪グループってことは、全員殺したら僕に復讐の手が襲い掛かるかもだな……。

 ここはあえて一人残すか?


 いや、それはちょっと危険だな。死んだと思ってたやつが蘇って、その上自分に敵意を向けてんだ、取り乱さない方がおかしいくらいなんだ。


 目の前で仲間が後ろから頭を撃ち抜かれて死んで腰が抜けている様子の生き残り。見るからにおびえていて、さすがに抵抗はしてこなさそうだ。それなら、別に殺す必要もない気がするんだけど……。


 「おい! お前! なんで生きてんだよ!! なんで銃なんて持ってんだよ!!」


 そうだ! このひとと協力して、制服マンもとい警察たちから逃げればいいじゃん! そしたら逃げ切れる確率も上がるし、このひとがその組織かなんかにうまーく説明してくれれば僕も変に恨まれることはない!


 これまた一石二鳥キター!


 「よくみたらその銃、ウチ謹製のじゃんか! なおさらなんでお前が持ってんだ!?」


 「これ、今死んだガリの方のものですよー。だって、自分が落としたことすら忘れて拾わないでいるんですもん。盗られてもしゃーないじゃん、ばかだなあ」

 

 僕は、相手の顔に向かって茄子を構える。


 「ひいい! やめろ! 撃たないでくださいおねがいいい!!」


 はは、怖がってる怖がってる。まるで僕が悪人みたいじゃないか。


 まったく、先に不法侵入してた悪人はそっちの方なんだけど。なんて勝手な奴。

 果たして今冷静な判断ができるのか疑問だ。


 「殺されたくないなら、僕が警察から逃げるのにに協力してくれ。これは一応脅しだぞ。」


 「は!?警察!?え??お前、なんかやってんの!?…ハッ、もしかして外の大量の警官は…?」


 え、正解……。こいつ、案外呑み込み早いな泥棒のくせに。


 「あー、ちょっと三人ほど警官、食べちゃいまして。多分仲間意識で、僕を追ってんのよ」


 「食べる!?殺した……ってことだよな……。お前、ここの家主じゃなかったのかよ!」


 「逃げ込んだ先がここだったってだけで…、つまり、お前らがすっごい運悪かっただけ、ってことだねうん」


 それには、何も答えなかった。

 悔しそうな表情を浮かべ、僕のことを睨んでいる。

 犯罪犯すくらいなら覚悟できてて当たり前だろ……、なに怒ってんだよ怖えな。


 つーか、命令を質問で返してんじゃん。

 脅されてるのによくそんなに強がれるな、大したもんだ。


 僕を撃ったのもこいつだし、意外に度胸ある?

 先に殺したのはあのガリで正解っぽいな。


 ふう。


 「協力してくれないなら殺すしかないけど、三人も食ったら胃もたれ起こしちゃうんだよ」


 「さっきから食う、って何なんだよ……! 分かった、分かったよ……!! 逃がしてくれるなら協力くらいしてやるよ!! だから、だからその拳銃をさっさとおろしてくださああい!!」


 うぇあっ、土下座しちゃったよ!

 すごい剣幕だな、生への執着が強いのはマジで素晴らしいことだ。


 とりあえず、やったあ! この界に来てから初めて仲間ができた!! これは記念すべきことだやったぜ!


 なに?太郎?なんだっけそれ?


 そんなことはもう忘れたね。はは、僕はこう見えて忘れん坊なんだ!!


 「じゃあ、あんたって車とか持ってる……」


 ひょう。


 途端、背中におぞましい寒気が走る。

 この空気を、僕は知っている、体が覚えている。


 何度も、感じたことがある空気。すごく、不安になる空気。


 振り向く前に思い出す。

 

 そうだよ、本当に僕は忘れん坊なんだ。


 血まみれの巨体が、僕めがけて、一直線に飛び込んできていた。

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