第五界 初めてのともだち

 ふうーー。


 あー、おいしかった!


 人肉を食うのは昔の戦争以来で久しぶりだから、食べ方とかちょびっと戸惑ったけどすげえうまかったっス。


 個人的にはやっぱり一番うまいのはハツ、心臓だな。


 周りの脂肪分がいい味出してて、若々しい僕(25歳)にとっては油は正義である。いい焼き加減で殺せたから、肉汁も閉じ込められててジューシーな舌触りがべリグッドなのでした。


 なんてったってハツは前世から僕の好物だった。戦場での孤独なサバイバルの中で、好物って存在はときに人を救ってくれたもんだ。


 ああ、あの頃が懐かしい。


 閑話休題、んでハツのいいところ。もいっこあるんですよ、これが。

 しかも味よりもっと重要そうなやつがよ。


 心臓のパワーなのか、とか、原理等は考えてもしゃーないからこの際置いといて。


 なんと、彼、伊藤さんのハツを食べたとき、Gのときのものほどではないけど、魔力が漲る感覚が感じられたのだ!


 つまりこれはどういうことか。


 魔法を使うときに、食べるのはやつら(忌むべき生物兵器、G)以外の生物の心臓でも代用できる可能性がある、ってことだ。


 そうかもしれないとなれば、早速実験だ!


 Gを摂取したときから、今はおよそ四時間ほど経っている。


 あ、あとこれからGの摂取のことは、響きの良さから「Gチャージ」と呼称することにする。Gの摂取に食事という意味はないから、摂取というと誤解されそうなのだ。


 え? なんであれから二時間も経ってるかって?



 お昼寝しちゃいました、気持ちよかったです。

 ここ、冷たい地面と、通り抜ける風が涼しくて気持ちいいんです。



 というか、たかが魔力を使えない人間ごときに、僕の最強の攻撃魔法である、初級死炎魔法[死炎の種火]を使っちゃったのは我ながらやりすぎた。


 あれ使うとめちゃめちゃスカッとすんだけど、その分一回で、もう連発できないくらい結構疲れちゃうから大変なんだよ。


 そんで眠くなったってのもあるまである。


 んで、Gチャージには時間切れ、というか魔力切れか?でもあるんだろう、目が覚めた時にはもう火魔法すら使えなくなってて残念だった。


 冷静に考えれば寝てるときに襲われたら危なかったな。反省反省。


 まあ魔力切れも好都合。今からする実験にとってはね。


 なにするかってゆうと、単純。


 あらゆる生き物の心臓を食いまくってそれぞれで得られる魔力量を自分の感覚ではかる。

 あー、それだと不確定要素が含まれちゃうけどまあいいだろ。


 いや、まてよいいこと思いついた。


 「何回、最強の初級死炎魔法を打ち続けられるか」で決めたらいんじゃね?


 そうすれば僕の死炎魔法の熟練度も上がって、威力も少しは上がるはず! 一石二鳥キター!!


 そうと決まれば早速実験開始じゃーー。


 さーて、ぼっくに食われるかわいそうな生き物はどこかなー。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 手始めに~そうだな…。


 お、獲物発見!

 

 まず、ちょうどそこにいた、尻尾が長く毛むくじゃらの、小動物でも食うか。


 右手でひょいっと捕まえたら、懸命に逃げようと足をバタバタさせてる。

 かわいらしい。僕の中のわずかな庇護欲がうずく。


 でも、この世界は非情なのだ。

 ごめんな。罪のない小動物よ。せめて良質な魔力になってくれ。


 あーん!


 「ちゅうー、ちゅうーー」

 

 その小動物は、か細く、しかし強い`生きたい‘という意思を感じさせる声で鳴いた。


 それは、驚くほどに、僕の心を動かした。

 そして僕も心の中で泣いた。 


 僕はこんなに弱く、守ってあげるべき存在を食うのか。しかも、食う必要もないのに。


 僕が、口に持っていこうとした手を止めたからか、彼、いや彼女かもしれない、は不思議そうな上目遣いをしてきた。

 

 「それで助けてもらえるとでもおもったか!? くうぞ?いまからくうぞ! いいな!?あーん、あーーん…、あーーー…」


 僕の言葉を理解したのか、小動物の抵抗はだんだんと小さくなり、そしてあきらめたかのようにこっちを見つめる。


 くうう。クソ。かわいい…。

 あざとい…! ずるい!!


 なぜ小さきものはこれほどまでに愛らしいのだ!


 食いたくない…というか食わない! そもそも、こんなかわいい子を殺傷するやつは頭がおかしい! 


 もしかしたらそういうやつ、つまり数秒前の僕みたいなやつに襲われないようにするため、防衛本能でこんなにかわいくなってるのかもな。


 決めた!こいつは僕が守る!

 ペットにして、一緒に僕の復讐劇を見届けてもらおう!


 そんで、いつか、魔力も使えるくらいに強くする、トレーニングをしてあげるんだ。

 そんで、戦争が起こったら、強くなったこいつと一緒に戦ったりするんだ…。


 よし、腹は決まった。

 

 僕は右手をにぎりしめる。


 そして、小動物に語りかける。


 「お前は今日から僕のペットだ。名前は『太郎』! 一緒に冒険をしよう! 友よ!」


 その言葉に対する反応はなかった。僕は右手を握りしめていた。


 見たら手のひらは血で濡れていて、太郎は握力に耐えることなく、潰されて死んでた。

 

 墓を作ろうと思ったけどやはりもったいないので、生で食した。


 「…初級死炎魔法[死炎の種火]」

 

 魔法は発動しなかった。どうやらこいつにはこの魔法を使うことができるだけの魔力量はなかったようだ。

 

 なのでその代わりに、初級火魔法[種火]と[気流操作]のループをさせたら何分もつか、という実験をした。


 10分間、火が生まれては消えていく様子を、ただ、見つめた。


 ふう。


 でも、太郎のような弱弱しい生き物からはあまり魔力が取れないことがわかったし。



 うん。結果オーライ!

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