第四界 VS制服マン軍団!!

 とりあえず、上級火魔法[ネズミ花火]を試してみるか。


 空気中から魔力を集める感じで…はできない。なぜなら、何度もいうけどこの界には空気中に魔力がないから。


 そこで、以前火を吐き出した時のように腹に力をいれ、力をしぼりだす。

 

 なんか、そうすればできる気がしたからだ。


 そして手を前に出し、そこに火の玉が浮き出る光景をイメージする。


 ほっ!


 「なっ! お前! 何をした! 手に持っているものを放しなさい!!」


 精成されたのは、こぶし大のサイズの真っ赤に燃えるエネルギーの塊。


 それは見ているだけで、高いエネルギーが感じられるすばらしいものだった。


 さすが僕。上級とはいえただの火魔法を、こんなにほれぼれする出来に仕上げられるなんて。


 魔法として美しい。ああ、美術館に飾りたい…。

 

 「うぇーい、ミディアムレアになれー!」


 僕はそれを、思いっきり制服マンに投げつけた。


 「ぐわっ! な、何を…熱ッ! あっちちち、熱い! 肌が焼けるっ!! うわあ、うあああああ、あああああ!! あ、あああ…」


 ぱちぱち、ぱちぱち。


 うん、いい香りだ! 

 

 [ネズミ花火]は、<二界>にいたころは戦争で、相手を弱らせて動きを鈍くするために使った思い出がある。


 しかし僕の天才的推理によるとこの界の人々は魔力で自分を強化することができないから、<二界>の兵士たちより火に対する耐性が弱くて、このくらいの魔法でもちょうどよく命を奪えるのではないかという結論に至ったのだ!


 「ああ……」


 

 放った火の玉は、奴に接触した瞬間形状を変えてまとわりつき、肌を焼き、肉を焼いた。


 そしてどんどん警官は元の人だった面影をなくし、黒い何かになっていく。


 そして、火は酸素を食ってさらに強くなり、かつて制服マンだった存在は、視認することができないほどに粉々になっていき……


 「……って、粉々になったら食えないじゃないか!!」


 僕は急いで[気流操作]を行って、火の周りの空気をすべて奪う。

 これにより火は酸素を失って、消えるはずだ!


 それにより火は勢いを失い、みるみるうちに消えていった。


 「あーあ……もう灰すら残ってないじゃん」


 くそう……! 

 

 残念。魔法を強くしすぎたか?

 イヤ、違う。

 ここの人間が脆すぎるんだ。僕は決して悪くない!


 しゃーない、じゃあここで応援がくるのを待つとするか。


 幸い魔法はまだ使える感じがするし、体力回復のためにも寝っ転がって待ってよーっと。


 ♪はーやっくこーいこーいぼっくのーえさー。

 ルンルン。


 あ。


 「ふふふ」


 ここで僕は、自分の目的が「奴らから逃げきること」から「奴らを食うこと」にまるっきりシフトチェンジしていることに気づき、苦笑した。


 「情緒不安定かよ、僕は。」


 僕ってこの界で何をしようとしてるんだろ。



 あ、そうだ。僕、モテたかったんだっけ。

 この界で、モテたかったんだ。


 でも、王兵みたいなひとたちを殺しまくるやつなんてモテるか?



 はは、あー、なんかもう自分が何がしたいかわからんくなってきた。




 腹減ったナー…




 「おいみんな! いたぞ! あれ!?井上はどこに行ったんだ? おい! 動くな! お前、井上をどこにやったんだ!!」


 待ってましたあ!


 餌が自分で歩いてきたよ!


 井上?

 ああ、さっきのひとか。この界には魔力もないし、なんて言ったら分かってもらえるんだろ。


 よし、ここは営業スマイルで押し切っちゃえ。あの厳しい世界、<二界>で培ったぼくのコミュ力、しかと見よ!


 「さーせん! 先ほどのお方なら僕が、灰も残さないで焼いちゃいました! 遺族の方々にはよろしく言っといてください! てへぺろ!!」


「な、何を言っているんだ!? やはりこいつは危険だ。取り押さえろーー!」


 不評か。

 まあいいでしょう。


 さて、目測で、人数は約10人。しかしここは路地。一対十の数の利を生かすことはできない。


 別に開けたとこでも楽勝なんだけどなー、とか思ってると、早速二人が飛び込んできた。しかし、見る限り彼らの得物は、井上さんも持ってた警棒、とかいうよくわかんない雑魚そうな棒のみ。



 え、なめてんの?

 僕だよ? 軍では兵士長も務めてたこともある、この僕だよ?



 でも、もしかしたら警棒はすっごい強い武器なのかも。


 よし、決めた。武器の性能と相手の戦闘力とかをはかるために、ここは一発、わざと無抵抗で食らってみよ。


 目前に、振り下ろされようとする警棒。


 おっと、一応[帯魔]で対魔シャツをさらに強化しとくか。よっと。


 一人の制服マンが振り下ろした警棒は、対魔シャツの上から僕の肩に勢いよく当たる。

 その瞬間、脳に響くキイン!! という心地いい金属音。

 

 「い、いってえ! こいつが着てんの、ただのシャツと思ったら鉄を入れてます! 気を付けてください!」


 やっぱりこんなもんかーい。


 これで、こいつらが、魔力が使える僕にとっての正真正銘の雑魚雑魚軍団だということが判明いたしましたな。


 ん、ちょっと待てよ。

 今の攻撃って、物理攻撃だよな。

 ……ってことは、あくまで「対魔」の対魔シャツだけだったら危なかったとか?


 ギリギリで僕自身の[帯魔]も使ったからいい感じに防げたけど、魔法にしか耐性がないこのシャツだけだったら、かなり危険だったよな。

 

 ぞぞぞ。


 ……結果オーライ!!

 今度から気をつけまーす。


「おのれ、おとなしくしろ!」


 二人がかりで僕を拘束しようとしてきたけど、手で軽く払って回避。

 お、案外肉弾戦もいけるのか? 僕は。



 うーん。

 

 なんかこんなやつら、普通に殺すのはいじめっぽくてやだけど。


 

 ぐうう。



 腹の虫が鳴る。もう、そろそろいいよな。


「ほい。中級業火魔法[火拳]」


 炎をまとった音速の拳。それは、僕を襲ったひとりの男の心臓そのものを焼き、貫いた。


 やったあ、ハツがいい感じに焼けたぜ。


 「おい伊藤、何された!?大丈夫か! おい! 伊藤ーー!!!!」



 さあ、<一界>に来てから初めての食事だ!


 

 思えば数時間だけど大変だった…しみじみ。それでも、やっとこうして肉を食える。感動するなあ。


 「みんな! こいつが! こいつが伊藤を殺しました!! こいつ、このくそ野郎! ゆ、許さない、絶対許さん!!」


 「まて、一旦下がれ佐藤! そいつは危険だ、お前までやられてしまう!! 」


 なに? 木の皮? ゴキブリ?


 そんなもの食事じゃない。

 100%ノーカンだ。


 それより、ハツだ! つややかに滴る血。今の今まで生きていたという新鮮さ。たくましい筋肉。

 

 なんって美味そうなんだ!


 「うわああああ! おら! おおらあ! おらあああ!!」


 早く食べよう! 


 口を目いっぱい開けて、あーーん。


 「この野郎、絶対に殺してやる! 伊藤の仇は、俺が……」


 さっきからうるせえよ! 雑魚棒でも何回も殴られたらさすがにいてえわ!!

 

 僕の食事の邪魔をすんな!


 「初級死炎魔法[死炎の種火]だ! 消えろ!」



 僕がその魔法の宣言をした瞬間、佐藤の脳には一つの黒い種火が出現した。その種火は脳から血管を通って全身へ、本人さえ気づくことない光を彷彿とさせる速さで侵略していき、次の瞬間、火は燃え尽き、同時に佐藤は空気に還った。



 残ったのは異常な熱とにおいのみで、何が起こったのかそのすべてを理解できた者は、この場で多分僕だけだった。


 うん、僕にとって最強の攻撃魔法を使うのは、ちょっとやりすぎた。



 ……気を取り直して、実食たいむ。はむはむ。


 …………八ッ!!

 こ、これは……。



 「ハツ、うめえええええ!! まじ感謝! 伊藤さんありがとう! 君のことはきっと、忘れるまで忘れないよ!!」


 予想以上の味でした。


 

 残りの肉も、余すところなくありがたーく全部いただこう。



 腸の中のうんこを取り除いてるときに横目で見えたのは、恐怖に染められた目のまま、必死に走ってにげていく制服マンたちの姿だった。

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