第8話 日常はどうあがいても有限
あの1件から1週間が経った。どうやら豊祭神の説得に赴いた気色わるい偽物のおかげで白刀山の命は助かりそうだ。今まで何年も生贄を攫っていた割に妙に聞き分けがいい神様だ。やはりどこの神様も神話や寓話で語られているように、人間である我々には到底理解できない。そんな神様のきまぐれのおかげで俺の親友は今日も俺のそばにいる。普段はそんなこと微塵も思わなかったけど、こうやって命の危機に直面すると命なんてのは偶発的な事情でいとも簡単に奪われてしまうし、そうかと思えば一人一人のちょっとした働きで助かることもある。とまぁこんなことを言えば命を軽んじているようにも聞こえるけど、これからは親友といるこの時間を大切にしていこうと思う。
「刻春、なに黙っちゃってんのぉ?もっと食べようよ!せっかく皆がもてなしてくれてるんだからさぁ」
そう、たとえ白刀山がせっかく助けてもらった命を浪費するように暴飲暴食を決め込んでいても・・・。
生贄の儀式が執り行われなくなり、そんな村の悪習を撤廃してくれた俺たちに村の人たちが総出を挙げて祝宴の席を用意してくれた。正直言って俺は下戸だしあまり乗る気ではなかったけど、白刀山は喜々として参加した。あいつは元々酒豪だし、あの1件以来よくわからないが飯がより一層旨くなったのでこういう食事会には積極的になっていた。これだけ飯食って脂肪を付けて相撲が上手くなるんなら万々歳だが勿論そうはいかない。だとしてもあいつが食事をしてる、生きてるという事実を祝福すべきだろう。
「刻春が食べないなら僕がこの料理全部食べちゃうけどいいの?今最高潮に食欲が湧いてるから」
「お前あんまり食べ過ぎるなよ。いくら俺たちのために出された料理だからって全部食べる奴があるか。少しは謙遜しろよな、はっきり言ってあの時の白刀山はただ泣き喚いてただけじゃないか。認めたくないけど俺たちが英雄視されてるのほとんどあの気色悪いおっさんのおかげだからな」
「それは少しは感謝してるけど、あの人に恋心を与えられた僕の魅力も評価されるべきじゃない?あの人が僕を好きになったのは僕のふくよかボディのおかげなんだから、更に長所を伸ばしておかないといけないし」
「いくらあのおっさんがデブ好きでも体動かすのも憚られるような巨漢になっちまったら愛想尽かすんじゃないか?あと俺が心配してるのはそんだけ際限無く胃袋にたらしこんでたら腹下すじゃないかってことだし」
「そんなこと心配してくれるのぉ?大丈夫だって、僕が何のために相撲やってると思ってんの」
「いや相撲関係ないと思うけど」
それから1時間後に白刀山はトイレに行って10分以上帰ってこなかった。たぶん嘔吐してるなあいつ、言わんこっちゃない・・・。こんな馬鹿馬鹿しいけど決して途切れることのない友情と共にこうやって何気ない日常を過ごせればいい。
スケープゴートー村存続の隠し味 舞零(ブレイ) @westlight
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます