第4話 欲しかったのは、言葉
いよいよこの日が来てしまった・・・。僕は今日この村存続の為に生贄にされる。決して拒否したいわけじゃないけどやっぱり死ぬのは怖い。神様の供物にされるとは一体どういうことなのか僕は未だに聞かされていない。実際に神と呼ばれる存在が目の前に現れてむしゃむしゃと咀嚼音をだしながら僕を生きたまま喰らっていくのか、それとも海にでも身投げして海の藻屑にでもなった後神様がやってきておちょぼ口で僕を食べるのか、雷にでも撃たれた後レアなのかミディアムなのかわからないけど程よい焼き加減になった後に僕の体をほくほくと口から湯気をだしながら味わっていくのか・・・。
それも気になるけど、僕が生贄になるという話は極秘扱いだったはずなのに、刻春の口から漏れてしまったことで刻春の父親である村長から大目玉を受けた彼は今日僕を迎えにやってくる。刻春にどんな顔をして生贄になればいいのか全くわからない。彼もきっとそうに違いない。きっとふたりとも顔を蒼白にしながらただ成り行きに身を委ねるのだろう。
ノックがして古い木製のドアが開いた。そこから顔を覗かせたのはやはり顔を蒼白にしてうつむきがちにこちらを見ている刻春だった。今日彼がどんな要件で訪ねてきたか解っていてもやはりそんな彼の様子を直視できない。
「まずは、ごめん」
「なんのことかな?」
「お前が生贄にされること蕎麦屋で堂々と話しちゃったこと。内密にしなきゃいけなかったのにどうしても要女にだけは話しておかなきゃいけないと思ったんだ。でもまさかあのタイミングで・・・ほら、あの店って言っちゃぁ悪いけど普段あんまり繁盛してないじゃん?だからこういう話してても気づかれないと思ったんだけど、思った以上に要女がヒートアップしちゃってさぁ。・・・いや、こんなの言い訳だよな、ほんとに悪かった」
「いやいや、どのみち村のみんなには知られちゃうことだし無理に隠さなくてもいいじゃん。むしろ僕みんなから同情されたり謝罪されたり貸したお金返してもらったりしてさ、気が楽になったよ。僕の命はきっと報われると思ったよ。」
「そんな言葉で慰めないでくれ!俺はどうしようもなくうつけ者だ、次期村長として責任ある行動を取らなきゃいけないのにこんな失態を・・・。本当にすまなかった!こんなことをしでかした俺が死ぬべきなのに白刀山に死んでもらわなきゃいけないなんて!」
「いやいや、そこまで反省してるんなら死ななくてもいいから!」
「こんなの、とても償えきれないよ・・・。結局生贄を出すっていう話も撤回しなかったし、こんなバカなミスまで」
「・・・刻春?もしかして僕が生贄にされそうになっても何もしなかったんじゃない?君《《撤回しなかった》って言ったよね?《《撤回できなかった》じゃなくて」
「ああ、すまん。本当に何もやってない。ほら、俺の親父って一度決めたことをなかなか変えないんだよ。下手になんか言ったら怒られそうでさ・・・」
「そっか、僕はどこかで君に期待していたけど何もしてくれなかったんだね。僕の命なんてどうでもよかったんだ・・・」
沈黙が流れた。刻春はどうして何も言ってくれないんだろう。
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