第3話 密談という告白
俺は今、恋人と一緒に近所の蕎麦屋に来ていた。名は
「えっ?なんで白刀山なの?」
白刀山が生贄にされることを伝えた彼女の第一声だった。やはり要女もこの人選が納得いかないようだ。
「そりゃ俺たちは昔から仲いいし気持ちはわかるけどさ」
「いやそういうことじゃなくなんで私じゃないの?」
「・・・・・え?」
「だってこういう時って村で一番美人で若い女を生贄にするんだじゃない!?なんで年頃で艶っぽい仕草で村のおじさん達全員虜にしてきた私じゃないわけ!?」
「いや、それはお前が現在の村長である俺の・・婚約者なわけだし、生贄に出すわけにはいかないって考えたんだよ、村のおじさんたちが」
「私と白刀山が同じ秤にかけられたことが嫌なの!」
なんということだ・・・。要女は自分が生贄にならずに白刀山に白羽の矢が立ったことに嫉妬しているらしい・・・。確かに彼女の言う通り神様に生贄を捧げるときはその村でも一番の美人を差し出すと決まっている。だが今回は事情もあって男が選ばれたのだ。
「で、刻春はどっちなの?」
「は?何がだよ?」
「だから、私と白刀山どっちを選んだの?」
「俺は・・・どっちも選べないよ!そりゃそうだろ!?親友と婚約者どちらを生贄に差し出すかを決めなきゃいけないんだぞ。俺は最後までこの議論に反対してたんだよ」
「信じられない!どうして私を選ばないのよ?どう考えても白刀山よりも私のほうが神様への供物にふさわしいでしょ!?」
「お前落ち着けよ!白刀山が・・・俺たちの仲間が生贄になろうとしてるんだぞ?」
しばらくの沈黙が流れた。ようやく彼女も落ち着きを取り戻し、事態の深刻さ、というより自分がよくわからない勘違いをしていたことに気づいたようだ。
「ごめん・・・。私何言ってたんだろう・・・。こんなこと言ってる場合じゃないよね」
「言い方は悪いけど・・・。俺もお前を生贄に選んだほうが神様も喜ぶと思う」
半分は冗談だけどこう言っておいた方が要女も納得するような気がした。ごめんな白刀山。でも毎日相撲の稽古に明け暮れて砂と擦り傷まみれになってもめげずに肥え太ってる弱小力士よりも、村一番の美人で愛嬌たっぷり昔から男たちにちやほやされてるせいで力仕事なんてほとんどしたこともないから擦り傷ひとつないつやつや肌の細くびれ娘なら確実に後者を選ぶと思ったのは本音だ。
「でもよくこんな話してくれたね」
「そりゃ話すでしょこんな大事な話」
「だっていつも村の偉い人が決めてる大事な話って私にしてくれないじゃない。あれ結構悲しかったりするんだけど今日はちゃんと話してくれたから話自体は悲しかったけどちょっとだけスッキリした」
「ああ、本当はこの話誰にも話しちゃいけないんだけどね。もし他の人に聞かれてたら親父にボコられるよ。でもこの話は特別だろ。さあ話も済んだしそろそろ帰ろうか、おっちゃん美味かったよ」
蕎麦屋の店主のおっちゃんはものすごく驚いた表情でこちらを見ていた。なんでだろう?そういえば今日はお客さんが満員だったな。久々に店が繁盛してるからあんなに目ン玉ひん剥いてびっくりしてたのかなぁ。
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