第22話 番外編4


 故郷であるアルトの街がヒューマン族の襲撃に遭った。離れた森の中にいた俺とラオは森の遺跡の様な場所で出会った骨の馬、キョウコツに連れられ逃亡した。





 (さて、ここまで来れば問題無いかな)


 「……。」




 俺達はヒューマン族の襲撃から逃れる為街から離れ取り敢えず俺達獣人の王都を目指す事にした。俺とラオは言葉発さずほとんど黙っていた。それもそうだ、家族も友人も置いて自分達だけ逃げて来たのだ、元気に振る舞える筈がない。




 (近くに川があるみたいだ、時間があるうちに水浴びでもした方が良いかな)



 「…分かった」


 「…おう」



 キョウコツに連れられて街道から外れた所に有る川に向かう。そこで逃亡する際に付いた汚れを洗い落とす。再び服を着て。キョウコツの元に集まる。




 (王都は昔と場所が変わっていなければこの方向で合ってるはずだ、取り敢えずこのまま進むんで良いかな?)



 「うん…母さんから父さんは王都に出稼ぎに出てるって聞いてるから、王都につけば何とかなるんじゃないかって…」



 (分かった、じゃあエンラとラオは僕の背中に乗って)




 キョウコツがそう言って体制を低くして乗りやすくしてくれる。俺が前、すぐ後ろにラオが跨りキョウコツが立ち上がる。正直言って乗り心地は最悪だ。キョウコツは動く馬の骨なのでこのまま走られたら確実に尻が割れる。




 「オイ、キョウコツ。骨が食い込んで来るんだけど何とかなんね?」


 「うん、ここまで来る時は黒いモヤ見たいので運んでくれたけどあれじゃだめなの?」


 (うっ、アレは色々消耗が激しいから今の僕の状態じゃ長続きしないし、途中で強力な魔物とかに襲われた時に使えないと困るからちょっと…)




 そうか…じゃあ仕方ないのか…。途中で適当な魔物か何かを狩って毛皮か何か手に入れば良いんだけど。













**********************









 途中でフォレストボアという魔物に遭遇しキョウコツが討伐した為その毛皮を使って何とか尻が割れるのは免れた。キョウコツの走行速度は非常に速く景色が一瞬の内に過ぎ去っていった。フォレストボアも討伐というより交通事故と言った感じだったし。





 そんなこんなで割とと順調に王都までの道のりを消化していった私達だったが突然キョウコツが急停止する。






 「どうしたのいきなり?」



 (二人は僕から降りて下がってて)



 「え!!」



 「どう言う事だよ!!」




 有無を言わさずキョウコツは私達を黒いモヤで掴み茂みの中に投げた。




 「うわっ!!」





 突然茂みに投げ込まれた私達はすぐに起き上がり抗議の声を上げようとするが現れた巨大な影を前にへたり込んだ。












************************










 僕はエンラとラオを近くの茂みに投げ込み突然現れた''僕達"のかつての敵の下僕達を睨む。




 僕の前に立ち塞がるのは4体の巨龍、空を覆う翼、眩い光沢を放つ鱗、名剣の如き牙が並んだ顎。鋭い爪を備えた強靭な四肢。




 (中位龍、それも4体。敵は僕の封印が解けた事を思ったより重く見たらしいな、不完全な僕にはキツイかも)






 兎に角二人から離れた場所まで引きつけなければ。戦闘の余波だけで二人は死にかねない。




 (来いよトカゲちゃん達、龍殺しの英雄の愛馬たるこの僕に喧嘩を売るんだ。ついて来れるよね?)





 そう言って自慢の脚力を活かして上空に跳び上がる。疾風魔法と黒印魔法を組み合わせて擬似的な足場を作り更に跳躍して移動する。龍共も俺を追って御自慢の翼で追って来る。だが僕の速さには及ばない。




 (「暗獄魔法Lv2アビスコール」)





 僕の背後から巨大な黒い人骨の腕が何本も現れ龍共に纏わりつき握り潰そうとする。しかし少し経つと骨は霧散し龍共は僕に向けてブレスを放つ。ブレスが雑だ、昔より手下の質は落ちているのかも知れない。悠々と躱し着地する。それでも魔法は無効化された、龍の鱗には魔法を弾く効果があるからそのせいだろう。なら更に強力な魔法で撃ち落とせ。





 (「暗獄魔法Lv5タルタロス」)






 僕の足元から聞くに堪えない不気味な叫びと共に無数の黒い光線が放たれ龍共の一体を撃墜する。




 経験値が入るが僕はそうそうレベルが上がる様な段階では無いので単なる倒せたという知らせにしかならない。





 龍共は疾風魔法を放って来るが全て躱しこちらも軽く魔法で迎撃する。魔法は弾かれるがそれで良い。





 龍共は僕の元まで辿り着き接近戦に持ち込もうと大地に降り立つ。確かに僕は接近戦は得意じゃない、そう言うのは相棒の役割だった。だけど全く出来ない訳じゃあ無い。







 封印が解かれたばかりで心許なさすぎるSTを四肢に込める。




 僕を3方向から取り囲み腕を振るったり噛みついたりしてくる龍共の攻撃を躱し狙いを定める。







 (「神速」!!)









 龍共には一瞬僕の姿が揺らいだ様に見えただろう。何が起こったのか理解すらしていない龍共はそのまま僕に遅い掛かろうとするが違和感に築いた様だ。残り3体であった龍共達の首が斜めにずれ落ちる。





 基本アビリティ「神速」

 STを消費して一時的に移動能力を爆発的に上昇させる。





 先程も言った通り封印から目覚めたばかりでこれを使うのはリスキーだった。中位龍くらいなら魔法だけでも倒せた、しかしMPを節約しておきたかったのだ。






 先程の中位龍共とは比べものにもならない程の圧倒的な強者の気配、翡翠の鱗、黄金の角、確かな知性の宿った深い緑の瞳。





 (まさかお前まで出てくるとは思わなかったよ、翠玉龍ヴァルトムート)



 (久しいな、歴戦の黒馬よ)



 (フッ、名前くらい覚えて置いてくれよ)



 「乗り手も居ないお主など唯の馬と変わらん」



 翠玉龍ヴァルトムート、各属性にその属性の竜と龍を束ねる王が居る。コイツは風の龍達を束ねる龍王。僕と相棒の敵、封印される前も死闘を繰り広げた龍王の一体。




 (そんな事を言う割には子分も連れて来きちゃって)



 「旧交を温めるのも此処までだ、不死とは言え復活には時間がかかるであろう」



 (そうだね、でも何でもう勝った気になってんのさ?)



 「今のお前など一捻りだ、それとも何か秘策でもあるのか?」




 秘策、秘策ねぇ。秘策って程のものじゃぁ無いけど手は有る。





 (来いよ跳びトカゲ、受けて立つ)



 「瞬殺だ」




 (旧き印より解放しよう、我は宇宙を満たすもの「バグ-シャース」!!)






 漆黒が溢れ、旧き戒めより邪悪なる力が放たれる。










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