第21話とある男の手記
それは突然だった。
私が魔物研究の一環で訪れた地方都市に突如として現れた紅の花を咲かせる巨木は一夜にして平穏を地獄に突き落とした。
黒く太い根が家々を破壊し狂気をばら撒く魔法で人々を狂わせ配下であろう食人植物で甚振る様に殺した。その度にキシキシと木が軋む音がし、嗤っているかの様であった。
勇気ある者達は果敢にも立ち向かった、しかしその攻撃は一切意味をなさず無残に殺された。
逃げ惑う女子供も例外なく襲われ殺される。
影に潜んでやり過ごそうとした者も無差別広範囲魔法の餌食になった。
アレは無理だ、アレは我々に罰を与えに来たのだ。
動く黒い巨木、カーストレント。周囲の負の感情を吸収して生まれる魔物。並みの人間で対応出来る物では無い。発生源は不明だが我々にその狂気を向けるという事は我々に対する怨みを持つ者の感情を吸収したのだろう。つまりアレは我々への罰、天が我々に罰を与えたのだ。
神が滅べと言うのなら仕方あるまい、甘んじて受け入れよう。しかし私は最後の瞬間まで記録を続け、我々が同じ過ちを繰り返さない様に後世に残す。それが私が魔物研究者として最後に成すべき事だ。しかし妻と娘は王都に置いて来て正解だったな。
黒い根が私に近づく、嗚呼最後の時が近い様だ。
足に根が巻き付き太い幹の前まで引き摺り出される。逆さまに吊るされても記録は辞めない。
最後に私のこの手記を拾うかも知れない誰かへ。
繰り返すがカーストレントをはじめとした呪木系統の魔物は周囲に複数の知的生命体が存在しなければ生まれない。つまり私が何を言いたいかと言うと彼等も被害者という事だ、他者の感情に振り回された被害者だ。我々が他者を呪い、その他者が我々を呪う。我々が始めた呪いが我々の元に帰って来た、それだけだ。
アレを恨んではならないアレを生み出したのは我々なのだ。
願わくばアレを含めた呪いの被害者達に神の御加護が在らんこ
手記は血痕と共にここで途絶えている。
魔物研究者 アイザック-ラムレイの手記より一部抜粋。
手記は瓦礫の中から騎士団により発見された。これが伝説級の魔物、「燃ゆる狂華」の記録に残る最初の人族との接触である。
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