1-26 茨、思わず目を逸らす

 ティアナの入浴中、モフ子と遊んでいると、ここでふとある事に気がつく。


 ……あれ。そういえば、ティアナの下着を買ってない。


 そう。ティアナの下着を用意していなかったのである。


 重要な事なのに、失念していた。

 男と比較し、女性用下着はあらゆる面において重要となるというのに。


 異世界において、彼女達に下着を身につける文化があるかはわからない。


 もし文化が無かったとしても、今までは常に革鎧を身につけていた為あまり問題は無かったかもしれないが、今後はそういう訳にはいかない。


 という訳で、洗面所のドア越しに、


「ごめん。少しだけ出かけてくる!」


 と伝えた後、モフ子に留守番をお願いし、僕は家を出た。


 流石に今からまたアパレルショップに行く訳にはいかないし、何よりも下着コーナーにズンズンと入っていく勇気はあいにく持ち合わせていない。


 という事で、僕は近くのコンビニへと走った。


 昨今のコンビニは安価な上、高品質な品、それも大半の生活必需品が手に入る。

 今回必要な女性用下着等も実は売っているのだ。


 それにコンビニであれば、品数が多い分下着を購入した事を周囲に勘づかれにくい為、かなり助かる。


 僕はコンビニ内に入ると、早速カップ付きキャミソールとショーツをカゴへと入れる。


 色とか形とか正直統一感は無いが、緊急用なので致し方無い。

 しっかりしたものは今度ティアナと一緒に買いに行けば良いだろう。


 サイズに関しては勿論詳細にはわからないので、ティアナの細さならと、勘でSサイズを選択した。


 後は偽装──あまり意味は無いが──としてスイーツを数点カゴの中に入れ、僕は平静のままレジへと向かう。

 そしてそのまま支払いを済ませると、僕はそそくさと家へと戻った。


 ◇


「ただいまー」


 と声を掛けながら、僕はリビングに続く扉を開ける。


「おかえり、茨。早かったわね」


 すると、そこには風呂上がりのティアナの姿があり……僕は思わず赤面する。


 ──ティアナの姿は見違えたようであった。


 艶が無く、傷んでいた髪も、現在は美しいブロンドになり、サラサラと指通りが良さそうである。


 血色が良くなった事もあってか、先程よりも健康的な顔色になり、何よりも上気した頬が色っぽい。


 ちなみに、寝間着はとりあえず母親のを使ってもらっている。

 母が身長高めな為、少しダボダボで袖が余っているようだが、ティアナが着ると、それすらも一種のファッションのように見えるから驚きである。


 ただ……果たしてそういう文化が無いのか、下着を上下共に身につけてないようで、今のティアナの姿からは、どことなく危うさを感じる。


「ただいま、ティアナ。お風呂はどうだった?」


「……もう、最高だったわ」


 言ってティアナは恍惚の表情を浮かべる。


「それは良かった。今後こっちに居る間は毎日入れるから楽しみにしていて」


「ふふっ、そうするわ。……ところで、どうしてずっと視線を逸らしているの?」


「ちょっと、どこに目を向けて良いかわからなくて……っと、それよりもこれ。とりあえずこれを着て欲しい」


 スイーツを取り出し、下着だけになったビニール袋を手渡す。

 ティアナはこれを受け取ると、小さく首を傾げる。


「……これは?」


「下着だよ。服の下に身につけるやつ。エルフ族には無かった?」


「えぇ。人族にはあったようだけど、私達は……ほら、いつもある程度厚手の服を身につけていたり、革鎧を身に纏っていたりするから──」


 言いながら、ティアナは現在の服装を見る。


 統一感のある長袖の上下である。

 ある程度の厚みはあるが、向こうの世界で身につけていたものに比べれば少々薄手と言えるか。


 それを思い、途端に恥ずかしくなってきたのか、ティアナは顔をほんのりと赤らめ、


「下着……ありがと。すぐに着てくるわ!」


 言葉の後、すぐ様洗面所へと向かうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る