1-18 ティアナ、日本の生活環境に驚愕する

 さて、とりあえず共同生活の許可という一番の問題は解決した。


 しかし、まだまだ今日中にやっておきたい事が幾つかある。


 ……どうしようかな。うん、とりあえず今後の事を考えて、設備の説明からいこう。


 ゴールデンウィークが終われば、必然的にティアナ達に留守を任せる事になる。


 当然であるが、その間僕の姿は学校にある為、何か問題が発生しても、助けてあげる事はできない。


 となれば、少しでも問題が起こらない様にすべく、家の主要設備について一通り理解してもらう必要がある。


 とは言え、ただ口頭で説明しても、まるっきり生活環境の違う異世界の住人であるティアナが、すんなりと理解できるとは思えない。

 だからこそ、少しでも操作になれる為にも、優先的に教えようと考えたのである。


 僕は、流石に喉が渇いたのか、ちびちびとお茶を飲むティアナに声を掛ける。


「ティアナ。とりあえず家の案内をするよ。一応重要な設備は粗方説明するけど、漏れがあるかもしれないからね。疑問があったらその都度質問して欲しい」


「えぇ、わかったわ」


「ワフッ!」


 とここで、モフ子が突如僕の胸に飛び込んでくる。

 一緒に家の中を見たかったのか、それとも空を駆けるのに飽きたのかわからないが、とにかく僕は、モフ子を柔らかく受け止めると、ティアナを引き連れ、各所の説明を始めた。


 ◇


 空木家はごく普通の2階建の一軒家であり、その設備も酷く標準的である。


 ──しかし、それはあくまで現代日本基準での事。


 中世ヨーロッパ並みの文化レベルの世界、かつその中でもとりわけ生活水準の低い小さな村出身のティアナからすれば、その全てが驚きであった様で──


 リビング、キッチンと歩きながら説明している間、小さいながらもコロコロと表情を変えるティアナの姿は中々に見ものであった。


 全体的に良い反応だったのだが、とりわけ反応が良かったのが、お風呂の説明をした時である。


「──で、ここがお風呂だね」


「……お、お風呂!? お風呂があるの!?」


 言って、ティアナが目を見開く。


「う、うん。もしかしてそっちだと珍しい?」


「珍しいというか、ほぼ無いわよ。そもそも、きっちんとか、せんめんじょ? もそうだけど、あんなに綺麗な水を自由に使える環境が無いもの。……そんな事が可能なのは、魔道具を購入できる一部の上級貴族様位だわ」


 言いながら何かに思い至った様に、


「家も大きくて、設備も至れり尽くせり……もしかして茨って上級貴族様?」


「いやいや。ごく普通の平民? だよ」


「……驚いたわ。随分と発達した世界なのね」


 以前情報交換をした際にこの世界について話はしたが、あくまで基本的な事のみ。

 故に、この世界の生活水準がどの程度なのかはわからなかったのだろう。


 とは言え──


「世界というより、国かな。僕達が住む日本は、世界全体で見たら、恵まれている方でね。やっぱり国によってはひもじい思いをしている人も多くいる」


「その辺りはどの世界も変わらないのね」


「だね」


 その後は2階に上がり、寝室の説明に移った。


 今回、ティアナは母親の寝室を使う事になっている。

 先程の電話の際に母親に確認をし、別段問題無く了承を得たのである。


 母親の部屋に入り、ベッド周りの説明をすると、ティアナは本日何度目か目を丸くする。


「……随分と分厚いベッドね」


「これまでは?」


「ベッドでは寝てたわよ。ただ、もっと硬くてて薄かったわ」


 その為、いつも朝になると身体が痛くなるらしい。


 正直母親のベッド自体そんな大層なものではない。ごく普通の家具屋に売っている、庶民的なベッドである。


 しかしやはり文化レベルの差というのはかなり影響がでかいのだろう。彼女は今日ここで眠れる事を内心楽しみにしている様な表情を浮かべていた。


 と、その後も説明をしていったのだが、ティアナはその度に、中々に新鮮な反応をしてくれた。

 そしてそのおかげか、説明する僕の方も段々と楽しくなり……最終的にどうでも良い部分まで説明を始めてしまい、結果ティアナからは呆れた様なジト目を、モフ子からは肉球パンチを貰う事になるのであった。

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