1-17 茨、母親にティアナとモフ子の件を報告する

 さて、勢いで共同生活が決まったのは良いが、今後の事を考えるのならば、一つ解決しておかなくてはならない事柄がある。


「……っと、そうだ。一応、母さん達に報告しなきゃ……でも、何て伝えよう」


 ──そう、両親への報告である。


「ご両親は別居中なの?」


「うん。仕事の都合でね」


 現在、2人は仕事の関係で海外に居る。


 その為、基本的にこの家には居ないのだが、それでも年に何度か一時的に帰ってくる事がある。──それもサプライズと称し、別段これといった報告も無しにだ。


 今後学校が始まれば、否が応にもモフ子とティアナに留守番をしてもらう事になる。

 そんな時に、サプライズとばかりに帰ってきて、想定外の対面を果たせば、大混乱に陥るのはまず間違い無い。


 だからこそ、両親にティアナの存在に認知させる必要がある。


 ──それだけでは無い。


 金銭面でも1つ懸念点がある。


 というのも、モフ子だけであれば僕のアルバイト収入だけで対応可能であったが、ティアナもとなると少々厳しくなってくるのである。


 となれば必然的に両親が用意してくれた生活費に頼る必要がある。


 しかし、だからといって報告もせずにそれをティアナの生活費に充てれば、突然増える消費に、両親が不審に思う可能性がある。


 故に、モフ子について報告した時の様に、あらかじめ伝えておくべきなのだが──


「……うーん、どうしよう」


 子犬──実際はフェンリルだったが──とは違い、ティアナは金髪美少女。


 そんな彼女を保護したと言うのは流石に違和感しかないし、かと言って友人としては、共同生活(生活費はこちら持ち)に説明がつかない。


 いや、そもそも革鎧を身に付け、腰に短剣を挿している時点で、大半の説明では納得させられないのだが。


 ……何か良い方法は無いかなぁ。


 と、僕が1人うーんと頭を悩ませていると、ここで様子を伺っていたティアナが口を開く。


「どうせなら事実を伝えたらどうかしら?」


「うーん」


 事実を伝える。……確かにそれが一番簡単だけど、信じてもらえるかなぁ。


 僕の両親は漫画やゲーム、特にファンタジーものに疎い。だからこそ、余計に信じてもらえるのか。いや、そもそも理解できるのかが心配である。


 しかし──


「まぁ、確かに誤魔化しようもなしなぁ。うん、そうだね。事実を伝えるか」


 言って僕がスマホを取り出すと、ティアナが警戒した様に身を固くする。


「何それ」


「ん、あ、そっか。これは携帯電話っていってね、遠くの人と簡単に会話できる機械だよ」


「ふーん。念話の様なものかしら。便利ね」


「ね、念話? う、うん。まぁかなり便利だね」


 取り出した瞬間はビクッと反応を示したティアナであったが、説明をすればすぐ様納得といった様に頷く。


 恐らく、情報交換の際にあらかじめこの世界の事は伝えていた事から、抵抗少なく受け入れる事ができたのだろう。


 とは言え、スマホが気になるのは変わりない様で、僕がスマホを操作する間、ティアナはこちらをじっと見つめている。


 そんな彼女の好奇の眼差しを向けられながら、電話をかけると、すぐ様聞き慣れた母親の声が聞こえてきた。


『もしもし』


「あ、母さん。茨だけど、今大丈夫?」


『えぇ、問題無いわよ。それよりもこの前かけてきたばかりなのにまた茨から電話なんて……今日は雪でも降るのかしら? ……っと、ごめんなさいね。それで何かしら。もしかしてこの前話していた子犬ちゃんの事かしら?』


 絶え間無く聞こえてくる母さんの声に思わず苦笑いを浮かべながら、僕は口を開く。


「うん、そう。その子犬も関係する事でね。……えっと、実はさ──」


『ええ』


「──この前保護した子犬が、フェンリルっていう異世界の守り神だったみたい」


『…………はい?』


「それで、その狼を追いかけてきたハーフエルフの女の子も今隣に居てさ、まぁ色々あって、とりあえず1か月位一緒に過ごす事になったんだよね」


『…………』


「だから、その許可を貰おうと電話して……って、もしもし? 母さん?」


『…………あ、貴方〜〜!! 茨が、茨が空想と現実の区別がつかなくなっちゃったみたいだわーーーーー!』


「え? いや、ちょっと待って母さん! 確かに、そうとしか聞こえない内容ではあるけど、待って! もう一度話を聞いて〜〜〜!』


 ──その後、写真を撮って見せたり、ティアナと会話をさせたりして、とりあえず約1ヶ月間の共同生活に関する許可を得る事ができた。


 流石にある程度事情を説明する必要があるかなと思い、ティアナの許可を得た後、彼女と共同生活をする事になった経緯を話したのだが、母さんは話の大半を理解できていないようだった。


 しかし、何となく雰囲気から、ティアナの状況があまりよろしくないと察した事、また会話の中で、母さんがティアナの事を気に入った事からか、スムーズに許可を貰えたのは、かなり助かった。


 と、そんなこんなで、ひとまず安心して共同生活を送れる環境が整った。

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