1-14 茨、異世界の存在を認知する
早速、ダイニングテーブルへと場所を移し、対面で話をしようと考える僕。しかし、ここで問題が発生する。
「……このまま話すのかしら?」
「いや、あっちのテーブルで話そうと思うんだけど……その、驚き過ぎて腰が抜けちゃって」
言葉の後、ハハハと笑えば、少女は呆れたとばかりにジト目を作る。
しかし、決してこちらを助けようと近づいたりはしない。
恐らく未だ僕に対する警戒心が抜けていないのだろう。
まぁ、それも当然の事である為、その事に対し僕自身も何とも思わずに、とにかく回復を待つ事数分。
別段会話も無く、そこそこに気まずいままこの場に止まっていると、ようやく力が入る様になった為、少女を連れてダイニングテーブルへと移動。
お茶、ジュース、お菓子などを準備してテーブルに並べた後、僕はすぐ様対面になる様に席に着いた。
「えっと、もしよければどうぞ」
言って用意したお茶やお菓子を勧める。
「ありがと。……けど、今は遠慮しておくわ。正直、まだ貴方の事信用していないから」
「それもそっか」
言いながら、ひとまず小分けされたチョコレート菓子を1つ手に取り口に入れる。
変わらぬ美味しさに小言で「んま」と溢した後、コップに冷たいお茶を注ぎ、一息に飲み干す。
驚き過ぎて喉が渇いていたというのもあるが、どちらかと言えば安全アピールである。
「…………」
その様子を表情を変えずじっと見つめる少女。しかし、やはりこれでも警戒心は無くならないのか、少女がお菓子やお茶に手をつける事はない。
……このまま待っていても仕方が無いか。
という事で、ひとまず話を聞く事にする。
「それで、一体どういう事なの? モフ子が突然空を駆けたり、黒い穴から君が現れたり、もう何がなんだか……」
「そうね。まずはその辺りから話しましょうか」
言葉の後、少女が説明を始める。その間に、幾つか質問をしたり、逆に質問を受けたりしながら情報を共有した。
まず、彼女達の住む世界の名前は、アルビゲニオン。ここ、地球とは異なる世界の様である。
アルビゲニオンは、いわゆる剣と魔法の世界で、この世界の人間に似た人族という種族を始め、幾つかの種族が存在しているらしい。
そして、目前の少女は人族以外の種族の一種である、エルフ族。こちらの想像通り、耳が尖り、人族から見て見目麗しい者が多いのが特徴の様である。
その説明を受け、少女の美しさもエルフ族という種族の特性かと納得する。
が、同時に疑問に思う。
エルフ族は耳が尖った種族と言うが、その割には少女の耳は丸みを帯びた、それこそ人族に近い様に見えるのだ。
と、そんな僕の視線に気づいたのか、少女は自身の耳に手を触れながら、
「私、人族とエルフ族のハーフなの」
と言う。
その表情はあまり芳しくない。
ハーフエルフという存在には、何かよろしく無い事情があるのだろうか。
その後、こちらの世界の事も話したりしながら情報交換をした所で、いよいよ話はモフ子の件に移る。
「うーん、中々信じられない話もあったけど、とりあえずある程度そちらの世界の事はわかったよ。あとは──」
「フェンリル様の件ね」
言って僕達の視線は斜め上、空を駆けるモフ子へと向いた。
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