1-13 茨、とんでもない美少女と出会う
「何、この奇妙な場所は……い、家?」
言って黒い穴から出てきた少女は、不安を全面に押し出しながら、周囲をキョロキョロと見回す。
その姿を、腰を抜かしたあまりにも情け無い姿勢で見上げる僕は、呆然とした面持ちのまま、強く思う。
──暴力的なまでに美しい、しかしあまりにも勿体無いと。
155cm程か、決して高くない身長。しかし、白魚の様に真白で美しい手足がすらり伸びている事や、腰の位置が高い事からか、かなりスタイルが良く見える。
不安げに歪めているその容貌は、まるでビスクドールの様に整っている。が、完成された女性美というよりは、どこか少女の様な幼さと危うさを兼ね備えている容姿と言うのが正しいか。
とにかく、その全てを含め、とんでもない美少女と言える。
しかし、少々つり目がちな勝気な瞳に何処となく疲れが見えたり、セミロングの金髪に艶が無かったりするのだ。
──とんでもなく美しいが、その素材の5割も魅力を引き出せていない少女。
それが目前の少女に対する僕の評価である。
と、モブ顔の僕が脳内でそう考えていると、目前の少女は更にキョロキョロと視線を動かす。
と、なれば当然低い位置に居る僕の方にも視線が向く訳で──ここで遂に僕と目が合う。
「……ッ! 人族ッ!」
瞬間、驚いた様に目を見開いた後、少女はキッと視線を鋭くさせる。
そしてすぐ様腰元へ手を持っていき──と、ここで空中に居たモフ子が、突然腰を抜かした僕の腹上に降り立ち、
「ワフッ!」
と少女に向けて吠えた。
その姿を目にした少女は再び目を見開く。
「フェンリル様!?」
言って少女はこちらへと近づこうと一歩踏み出し、彼女が部分的に身に纏う革鎧や、腰に挿している短剣の様なモノがカチャリと音を鳴らす。
しかし、すぐに僕の存在を思い出した様に足を止める。そして少しだけ不安を表情に浮かべながら、可憐な口を開く。
「そ、そこの人族。単刀直入に言うわ。フェンリル様をこちらへ渡しなさい」
「……ふぇ、ふぇんりるさま? 一体、何のこと?」
「とぼけても無駄よ。さぁ、早く貴方の抱えているフェンリル様をこちらへ渡しなさい!」
「抱えている? え、まさか。ちょ、ちょっと待った! いや、多分犬違いだよ! この子はモフ子! 君の言うふぇんりるさまとかいう犬とは違う!」
「も、モフ子……? な、何よその低俗な名前は──」
「低俗とは失礼な!」
「ワフッ!」
思わず声を上げれば、「そうだそうだ」と言わんばかりにモフ子が続く。
その勢いに驚いたのか、少女は一度小さく咳払いをした後、
「低俗と言ったのは謝るわ。ごめんなさい。でも、それとこれとは話が別よ。とにかくフェンリル様は私達の世界に欠かす事ができない崇高な存在なの! だから早く渡しなさい!」
と言い、キッと鋭い視線を向ける。その表情には少々の不安と、何がしか焦りの様なものが見て取れる。
その姿に、
……よくわからないけど、ただ事では無さそうだ。
と思いながら、僕は口を開く。
「ちょ、ちょっと待って! いきなり現れて、事情も説明せずにモフ子を渡せなんて言われても、そんなの応じる訳無いよ!」
「……そ、それは」
言って少女は眉を顰め、言い淀む。
……良かった。話が通じない訳では無さそう。
少女の反応に内心安堵の息を吐きつつ、僕は先程よりも少し落ち着いた口調で、
「とりあえず、君に何か事情があるのも、モフ子が必要なのもわかった。けど、だからといってこちらも、はいそうですかと渡す訳にはいかない」
一拍空け、
「そこで一度腰を落ち着けて話をしたいなと思う。……それでどうかな?」
「…………」
僕の言葉を受け、少女はこちらをじっと見つめながら少し考える様に沈黙をした後、
「わかったわ」
と言って、うんと頷いた。
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