1-12 モフ子、空を駆ける
こちらに目を向け、褒めて褒めてとばかりに尻尾を振るモフ子。
そんなモフ子を反射的によしよししつつ、僕の視線は前方のレースカーテンから離れない。
立ち上がり、窓へと近づく。そして問題のレースカーテンを掴むと、その切れ目をじっと見つめる。
──まるで鋭利な刃物で切りつけたかの様に綺麗に裂けている。
ペロリと捲り、後方の窓に視線を向ける。
……うん、窓は異常無しと。
確認した後、しかしどこか現実感のない心持ちのまま、再び床に座る。
……いやー、まさか突然レースカーテンが破れるなんてなー、ははは……。
「…………」
一瞬の沈黙。それを破る様に、僕は恐る恐るといった様相で、
「……モ、モフ子」
「ワフッ!」
「ええっと……あのパックリ裂けてるのって、モフ子の力だったりする?」
普通に考えれば、そんな訳ない。
しかしどう足掻いても超常現象によるものとしか思えない目前のそれに、僕は半ば現実逃避も兼ねてモフ子に聞いてしまう。
するとモフ子は、キラキラと輝く瞳をこちらへと向けながら、
「ワフッ!」
とまるで肯定する様に力強い声を上げた。
「そ、そっか。凄いなーモフ子は」
言って撫でてやれば、モフ子はどこか誇らしげな表情を浮かべる。
「…………」
…………いやいやいや、いくらなんでもそんな訳ないでしょ!
と、思わず心の中でツッコミを入れる。
しかし、目前で起きた事象があまりにも超常的である事、何よりもこれまで見せてきたモフ子の天才的な一面から、「あながち不可能ではないのか……?」という考えも浮かんでくる。
「……検証しよう。うん、別に現実逃避をしようとしている訳ではなくて、あくまでも一つの可能性として、検証が必要なんだ」
誰にでもなく、自分を納得させる様にぶつぶつと呟いた後、モフ子の方へと向き直る。
相変わらず小さくてモフモフで、可愛いでしかない容貌である。
……まさかこんな子があの現象を起こした張本人であるなど、万に一つも考えられないが、本人が肯定した以上、可能性がゼロとは言いきれない。
僕はモフ子への信頼もあったのか、そんな訳ないと思いつつも、
「ちなみに、他にも何か技があったりする? できれば、モノが壊れないもので」
と、ちょっとした好奇心も込みで問うてみる。するとモフ子は「できるよ!」とばかりに元気良く吠えた。
「よし、じゃあお願いしようかな」
僕の言葉に返答する様にもう一度吠えた後、モフ子はすぐ様ぴょんとジャンプをした。
──えっと、高すぎない……?
おおよそ50cm程か。モフ子は自身の体長を超える高さまで跳び上がっている。
……犬──それも子犬が、助走も無くここまで跳べるものなの?
と、疑問を覚えつつ、ぼうっと眺める僕。
そんな僕の目前で、跳び上がったモフ子は重力に従い自由落下を……せず、さも当然とばかりに空中を蹴ると、そのまま旋回しつつ、上へ上へと駆け上がっていく。
「…………へ?」
ゴシゴシと目を擦り、視線を上に上げる。
そこには地面を走るが如く、軽やかに空を駆けるモフ子の姿がある。
思わず頬をつねれば、ここが夢では無いと痛みが教えてくれる。
──つまり、目前の超現象は紛れもない現実……?
「え、ええええぇぇぇぇ!?!?」
思わず声を上げてしまう。
いや、それも仕方がないと言えるだろう。
レースカーテンが裂けただけならば、例え謎理論であったとしても、幾らでも要因を説明する事ができる。
何故ならば、影響を受けたのがモノであり、レースカーテン自体別段耐久性の高いモノでもないからだ。
しかし、目前のこれは違う。
空を駆けているのは紛れもなく生物のモフ子であり、そこにはこの世のありとあらゆる知識を集結しても、一切の説明がつかない未知が存在している。
「一体、どういう──」
あまりの非現実的な状況に、流石に今までの様に手放しで褒める事などできず、呆然とする僕。
と、ここで。モフ子が突如何かに気がついたかの様にピクリと反応すると、空中に留まったまま一点を見つめ始める。
呆然としたまま、思わずつられる様にそちらへ目を向ける僕。
そんな僕の目前で、何もない普通のリビングに、突如黒い穴が開いた。
「こ、今度はなに!?」
最早パニック状態で後退りながら声を上げる僕。
そんな僕の驚愕の声などお構いなしに、黒い穴はバチバチという音と共に紫電を走らせ始め──そして次の瞬間、その穴の中から、恐る恐るといった様子で、この世のものとは思えない程に美しい少女が出てきた。
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