1-4 茨、子犬(?)の今後について考える

 あれから何度かスプーンで餌を与えた後、餌の入った皿を床へと置くと、子犬は餌をじかに食べ始めた。


 その様子に、僕は微笑ましく思いながらも、


 ……さて、これからどうしようか。


 内心では子犬の今後について、どうするべきかと頭を悩ませていた。


 というのも、僕は高校生。それも1人暮らしをしているのだ。

 一応今はゴールデンウィークだから良いものの、すぐに学校も始まってしまう。


 もし飼いたいと思ったとしても、ここが鬼門なのだ。

 他の選択肢として、保健所に連れていくとか、里親を探してみるとか色々ありはするが、それがこの子の幸せに繋がるかと言えば必ずしもそうとは言えない。


 どうするべきかなぁ。


 と、僕がうーんと唸っていると、ここで餌を食べ終えた子犬が、尻尾をブンブンと振りながらこちらへと飛びついてきた。


「うぉっと」


 そのあまりの元気の良さに笑ってしまいながらも、子犬を撫でると気持ち良さそうに声を上げる。


 その姿に、僕は……可愛いと心の底から思った。と同時に、この子を飼いたいという思いが段々と強まっていく。


 飼いたい……けど、1つの命。一人暮らしの高校生が簡単に飼うと決めてしまって良いものではないだろう。


 と、子犬を愛でつつ葛藤に苦しみ、しかし結局自分一人では判断できないと考えた僕は、母親に聞いてみる事にした。


 という訳で子犬に大人しくするようシーッと声をかける。

 するとこちらの言葉がわかっているかのように静かにお座りをする子犬。


 やっぱり天才だ! なんて思いながらも、僕はスマホを操作し、久しぶりに母さんへと電話をかけた。


 数回のコールの後、カチャリという音が鳴る。


「もしもし、母さん?」

『あら、茨じゃない。貴方から電話をかけるなんて珍しいわね。どうしたの?』

「母さん……実はさ──」


 僕は母さんに事の顛末と、今後について自身の考えを述べた。

 すると数瞬の沈黙の後、母さんが真剣な声色で、


『なるほど……茨はその子犬ちゃんを面倒見たいと思っているのよね?』

「うん」

『……良いんじゃないかしら』

「でも、命を預かる不安が……」

『茨なら大丈夫よ。貴方がしっかりした良い子な事、お母さん知ってるわ。それに命を預かる事に対して責任を持たなければならない事もちゃんと理解している』

「母さん……」

『ただ茨は学校に行かなくちゃならない。その間、子犬ちゃんはお留守番できるかしら』

「それは……」


 そう。子犬を飼う際の最大の難点がここだ。

 僕が学校に行っている間、子犬は1人で生活をする事になる。

 先程のやり取りから、子犬が賢いのはわかったが、だからと言って1人でお留守番できるかといわれれば、首を振らざるを得ない。

 それに例え可能であったとしても、子犬を1人で置いていくという行為を僕自身ができそうになかった。


 そんな事もあって、僕が答えに窮していると、


『……幸いにも、今はゴールデンウィークでしょう? ならばひとまずお世話をしつつ様子を見てはどうかしら?』

「そうだね。うん、そうしてみる。ありがとう母さん」


 言って1人頷き、その後一言二言話し、僕は通話を切った。


 ……母さんの許しも得られた事で、ひとまずは子犬と共に過ごせるようになった。

 けど、ゴールデンウィーク後はどうするのかまだ定まっていない。


 ……ただ、どんな展開になるのであれ、子犬が1番幸せになれる道を選ぼう。


 相変わらず元気に飛びついてくる子犬の相手をしながら、飼いたいという気持ちを押し殺しつつ、僕は1人そう決意した。

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