1-3 茨、子犬(?)の賢さに驚く

 翌朝。寝起き特有のフワフワとした夢と現を行き来しているかのような意識の中で、僕は腹部に普段とは違った重さを感じた。


 ……なんだろ?


 ぼんやりとしながら、それが一体何なのか考えてみるも、皆目見当がつかない。


 すると今度は、顔を湿った生暖かい何かが這う感覚を覚える。


 ……本当なんだ。夢?


 これが俗に言う明晰夢というやつなのか? と、無い知識から考えるも、そもそも明晰夢が何なのかを詳しく知らない為、結果断定できない。


 と、僕がそんな風に混乱していると、次は何やら甲高い動物の鳴き声が聴こえ……。


 その声に、僕は深海から地上へと浮上するように徐々に目を覚ましていき、そしてゆっくりと目を見開くと……そこには灰色と白のもふもふしたものがあり──


 って、もふもふ!?


「うおっ!? な、何!?」


 ここで僕の意識は完全に覚醒し、大きく目を見開く。


 すると、目の前には尻尾をちぎれてしまわないか心配になる程振り、こちらに飛びついてくる子犬の姿があった。


「び、びっくりした! おお! 元気になったんだね!」


 あまりの勢いに顔を仰け反らせながらも笑顔で身体を持ち上げると、子犬はまるでこちらの声に応えるかのように、大きくワオーンと可愛らしい鳴き声を上げる。


 声が高くその鳴き声は可愛らしくはあるのだが、どうも犬のようではなく……とは言え、僕自身子犬を飼った経験も無い為、こんなものかと納得する。


 その後、昨日までの衰弱した様子が嘘であるかのようにはしゃぐ子犬と戯れている中、ここで僕はハッとすると、


「そうだ! ご飯! ご飯にしよう!」


 そう声を上げた。あまりにも元気過ぎて忘れていたが、少なくともこの子犬は昨日の夕方から何も口にしていない筈である。


 どんな生き物でも、基本赤ん坊の頃こそ食事が重要である。


 それは当然子犬も例外では無いだろう。


 そう考えると、僕は昨日購入した品々の中から子犬用の餌を取り出した。


 ……確か、最初はスプーンで与えた方が良いんだっけ?


 考え、とりあえずキッチンから使い捨てのスプーンを持ってくる。

 子犬が食べやすいよう、アイスなどを食べる際に使用する小さいやつだ。


 子犬用の餌はぬるま湯や水を使用しおかゆのようにするものであったので、早速レシピ通りに作成。


 するとこれが餌だとわかったのか、子犬はキラキラした目をこちらへと向けてくる。


「……ちょっと待ってねー」


 待ちきれない! とでも言いたげに尻尾を振りに振る子犬に僕は笑いながらそう言う。

 そして餌が完成すると、それを持ったままリビングの方へと向かった。


 僕がリビングにつき、テーブルへと餌を置くのと同時に、子犬が足元でお座りをしたままま、こちらへと視線を向けてくる。


 ……あまり良くわからないけど、もしかしてこの子って結構お利口なのかな。


 赤ん坊の頃と言えば、本能の赴くままに行動するイメージがあった為、思わずそんな事を思う。

 が、やはり子犬を飼った経験などないので、まぁこんなものかと納得すると、僕はスプーンを使って餌を掬った。


 そしてそれを子犬の口元へと近づけ……ここで僕はなんとなしに「待て」と言ってみる。


 幾ら何でもこれは無理かな? なんて思いつつも、子犬へと目を向けると……なんと食べずにじっとこちらを見つめていた。


 最初は単純に餌が気に入らなかったのかとも考えたが、時折視線を餌の方へと向ける事から、決してそういう訳ではないのだろう。


 という事はまさか……


 僕は一度ゴクリと唾を飲み込むと、こちらをじっと見つめる子犬へ「よし」と声を掛けた。


 と同時に餌へと飛び付く子犬。


 その様子に、


「て、天才だーー!!」


 僕は子犬の凄さを強く実感し、そう声を上げるのであった。

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